第2話 where:此処は何処ですか!?




 信じられないかもしれないが、中学卒業を控えたある日、僕はこの世を去ったみたいだ。

 薄れゆく意識の中、気が付けば草木香る丘に放り出され‥‥。


 『なっ‥‥!? なんだこれ‥‥。』


 右腕に刻まれた〝read〟の文字。

 そしてかたわらには英単語帳。しかも、これは生前想いを寄せていた人から貰った大切なもの。


 『はぁ‥‥? 訳分からん‥‥。』


……………………


 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。


 長考の末、その場に寝転んだ。


 『はぁ~あ‥‥‥。』


 代わり映えない中学の制服。卒業シーズンのため学ランだ。

 そうか、僕は学校の帰りに命を落としたのか‥‥。

 と無理矢理にでも自分を納得させる。


 『‥‥‥‥寝よ。』


 人はどうしようも無くなった時、現実逃避したりする。まさに今の僕がその良い例だ。

 遂にはパラパラと単語帳を開いてもいる。


 『‥‥read、important、kind、solve‥‥。 』


 受験勉強でも見たなぁ‥‥。結局、半分も覚えてない気がするけれど。


 『そうだ‥‥readって僕の腕にも‥!』


 ゴシゴシ擦ってみたけど消えない、剥がれない。

 僕は青刺タトゥーを入れるようの人ではない。バッチリ校則違反だからね。


 『なんも意味無いだろ‥‥? もうこれから

 どうしよ‥‥。』


 人一人居ない原っぱの中、必死に考えてはみた。けれど、頭に浮かんだのはさっきまで当たり前だった日々。


 『‥‥‥‥‥。』


 〝いってきます〟と言えば必ず返してくれた両親、さっきまで昇降口で喋ってた佐久真、好きだったスマホゲーム、給食のソフトめん、よく分からんかった二次関数のプリント、クソ厳しかった部活の顧問、一年間お世話になった担任の先生、布団の横に置いた時計。

 そして‥‥大好きだった人。


 『‥‥‥‥‥。』


 その全てが、思い出しては、不完全なままに次へ次へと消えていく。

 その全てが、もう此処には無いんだと。

 

 『‥‥‥‥‥。』


 またしても意識が薄れていく。

 今度は眠気だ‥‥、こんな原っぱなんだけどなぁ‥。

 眠気ってのはいつの日も、心地よいものだと思っていた。けれど、この時ばかりは胸につかえるものがあって、吐き出せなくて‥‥。



……………………


 

 いつしか夢を見ていた。

 そう、大好きな人の夢だ。


 『待って‥‥!』

 

 手を伸ばしても、大声で叫んでみても、君には届かない。

 

 「大丈夫‥‥君なら大丈夫‥‥。」


 彼女は微笑んだまま、こっちを見つめて一言話してきた。


 「自分を信じて‥‥。辛いときは仲間を頼っ

 て‥‥。」


 『待って!! 消えないで‥‥!!』


 哀しげで、それでいて愛おしくて‥‥。

 それでも彼女はゆっくりと崩れ去っていく。


 「頑張ってね‥‥。」


 はにかんだ彼女の顔が、最後の景色だった。



 

……………………



 『ッはっ‥‥‥‥!?』


 不意に現実に引き戻される。

 なんだ‥‥夢か。

 こういうときはタイムリーな夢を見るな‥‥。


 『待て! 今何時!?』


 慌てて時計を探すが、そんなものはなく。

 夕焼けの空が草木のまた違った味を演出している。

 揺れ動く草木‥‥そよ風が吹いているな。

 やけに身に染みる風だ。まるで心に空いた穴にすーっと通り抜けていくようで、なんだかぼっーとする。

 きっと、まだ目が覚めてないんだなぁ。

 そう考えていた時、別の刺激が頭に横入りしてくる。


 『やべ‥‥これってもう夜が来る‥‥のか?』


 回りに建物一つない原っぱに、中坊が一人。

 しかも日は傾いて焦がれている‥‥。

 要するに‥‥‥‥‥‥。


 『此処ここ何処どこだぁーー!?』


 叫び声が少しこだまする、そんなような自然に囲まれていた。

 


 

 

 

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