第19話 おちくぼ姫もとい、あんみつ姫
「・・・まさに大奥・・・・」
呟いた勝の肩を叩いて柊介が頷く。
「総取締は当然南ちゃんだな」
勝がずらりと並んだ女性陣を前に続ける。
「となると、正室は望月か早川」
姉に朝から引っ張り回されたせいで寝不足の実が欠伸をしながら言った。
「おっとり系のひなたが正室。側室で火花散らすのが多恵と京」
竜彦が非の打ちどころのない役ふりに、感嘆のため息を漏らす。
「ナイスキャスティング・・・」
巧弥が残りの2人に視線をやって小さく笑った。
「矢野と吉田は、殿様の妹ってとこかな?」
「ああーなんとなくそんな気がする・・・・」
畳の上で綺麗に着飾ってるお姫様というよりは・・・市井を駆けずり回って悪人をとっちめる・・
「・・・あーアレだ・・・・・あんみつ姫」
勝の言葉に一同が頷いて、大河がしみじみ言った。
「さっすが旦那。上手いこと言うなぁ」
大奥と称された女性陣は顔を見合わせるなり大盛り上がり。
予想通り茉梨にくっつかれまくった多恵がぐったりしながら呟く。
「もーただでさえ着物でしんどいってのに・・なんでそんな無駄に元気なの?」
「着物着るとテンションあがんない?」
「上がるかっての・・・あーしんどい・・」
「ちょっと!一番メイクも着付けも手間かかってるんだから、しゃんとしててよね」
すかさず乱れた髪を直して京が口をとがらせる。
「でも・・・なんでスタジオ写真??」
ひなたの疑問に南が満面の笑みで答える。
「やるなら徹底的にってのが巧弥の主義だから」
「それってたぶん、着物着た南さんの写真を残しておきたかっただけだと思う」
茉梨の言葉にうんうん、と一同が頷く。
「それにしたってプロのカメラマン使う?やること派手よねー加賀谷さん・・・」
セットの中で何パターンも写真を撮られて、ちょっとしたモデル気分を味わった。
中庭や、エントランス、お茶室に、アンティークの応接セット。
これはもう写真でなくて、写真集を作るつもりだとしか思えない。
京がぐるりとあたりを見渡して言った。
いったいどんな伝手を頼ったというのか・・・・
「だって、せっかくなら楽しみたいじゃない?」
「大賛成!!!」
はいっと手を挙げた茉梨に続いて佳苗が同じく手を挙げる。
「こんなのもう二度とないですからねー」
「でしょ?だから、目いっぱい楽しもうね」
妹たちを見渡して微笑む南に、ぐったり気味の多恵までも大きく頷いて見せた。
「あの行動力は、人魚姫ならではかも・・・」
「誰が人魚姫?」
佳苗の言葉に隣の茉梨が小首を傾げる。
いつもより大人びて見えるのはシックな着物と、控え目なベージュの口紅のせいかもしれない。
こういう状況でも、緊張どころか好奇心にあふれる表情は、やっぱり茉梨ならではだ。
「南さんが好きなお姫様は、人魚姫だそうです。声を失くしても、好きな人に会いに行くために足を手に入れるとことか似てませんか?」
「おー・・・うんうん。そだねーいかにもって感じ」
「茉梨さんは、誰が好きですか?」
「あたしー?・・・んー・・・おとぎ話のお姫様は窮屈そうであんま好きじゃないけど・・・選ぶなら・・・探究心に溢れたオットコ前な女の子のベルかなぁ・・・」
らしすぎる回答に佳苗は思わず笑いだす。
「茉梨さんこそ、如何にもって感じですよ・・・多恵さんたちは?」
後輩の問いかけにひなたが嬉しそうに目を細める。
耳元に飾られた桜のピアスは竜彦が贈ったものらしい。
小さな花びらがいくつも揺れる様は、ひなたをより一層可憐に見せた。
「あたしは、絶対シンデレラ!舞踏会とか、魔法とか、すごい憧れるなぁ」
「昔から、遊園地のメリーゴーランドは必ずかぼちゃの馬車だもんね」
「・・・・今も好きよ。女の子の憧れでしょう・・」
「あーだから、結婚式のドレス淡い水色だったんだァ」
茉梨の言葉にひなたがパッと顔を明るくした。
「そうなの!デザインもいろいろ彼と探してねっ・・・あ・・・ごめんね?しゃべりすぎ?」
「いーのいーの可愛いなぁ。もうっ」
そう言って茉梨がひなたの髪を撫でる。
その向かいで多恵が口元に手を当てて、眉根を寄せる。
「あたしは・・・眠り姫・・・かなぁ」
予想外の答えに飛びついたのは南だった。
身を乗り出して多恵に詰め寄る。
「え!?なんで!?いつか王子様が!!??とか思ってる!?」
すごい剣幕で迫られて(着物+メイクで迫力は2割増)多恵は思わず後ずさる。
「そんな訳ないでしょ・・・・継母に謂れのない苛め受けるのもヤだし、声無くすのなんて以ての外、獣の王子なんてあり得ないから。その点、眠り姫はずーっと寝てていいんだから、楽なもんじゃない」
「ハマりすぎ!!!多恵らしい!まさに物ぐさ眠り姫!!あっはっは」
大爆笑する茉梨の頬をつねる多恵。
「野獣と暮らせる偏屈娘よかマシよ」
「だって魔法がかかったお城とかめっちゃ面白くない?摩訶不思議なお城で探検と冒険の毎日!呪い最高!」
「・・・すでにラブストーリーじゃないよね」
ひなたのセリフに茉梨は小首を傾げてちょっと考えた後首を振った。
「あたし的に、野獣は居てもいなくてもイイ。だってあの城が好きだから!!」
「・・・・あんた、今この瞬間全世界の乙女を敵に回したわよ・・」
京の言葉に茉梨が快活に笑う。
「んな馬鹿なァ。そーゆう京ちゃんは?どのお姫様?」
「・・・可愛い顔してタフで辛辣な白雪姫・・・かな」
「辛辣って・・・・どのへんが?」
多恵の言葉に京が記憶を手繰り寄せるようにして言葉を紡ぐ。
「・・あれってねーグリム童話の初版本によると、白雪姫毎回死んで、そのたびに蘇生すんのよ。そんで、最後は念願の王子様をゲットして、お城で結婚式。その披露宴で、自分を何度も殺そうと画策した継母にあっつあつの鉄の靴を履かせて死ぬまで踊らせるの」
「・・・・ひえーっ・・・・えげつない話・・・」
茉梨の感想に、南たちがそろって神妙な顔で頷く。
「ね?可愛い顔して辛辣でしょ?目には目をってヤツよ。おとぎ話にあるまじき強烈なお姫様」
全員の好きなキャラクターを聞いた佳苗は眉根を寄せて呟いた。
「なんっていうかー・・・真っ当なお姫様って・・・やっぱりひなたさんだけですね・・・・」
そのセリフを聞いた茉梨がカラッと笑ってピースサインを繰り出した。
「6人にひとりも本物のお姫様がいりゃー、十分でしょうよ」
・・・・・実は望月南より、もっともっと強いのはこの人かもしれない・・・
そんな感想を持った佳苗の肩を叩いて南が立ち上がった。
「さーて、待ちくたびれてる男どもを呼んで、最後はみんなで集合写真撮ろっかぁ」
「南ちゃん、外出るかい?」
カメラの角度をチェックしていた本日大活躍のプロカメラマンが問いかける。
南はスタジオから窓の外をちらりと見やって頷いた。
空は綺麗に晴れているし、年中海外に居る彼に写真を撮って貰える機会なんて滅多にないのだから。
「大地さん。せっかくだから、真っ青な空の下で撮りたいなぁ」
「了解。じゃあ庭にベンチ移動させよう。座って1枚、後はみんなが好き勝手動いてくれたら適当にシャッター切るから」
「分かりましたぁ」
頷いた南に、少し離れたところで撮影を見守っていた恋人で作家でもある彼女が立ち上がる。
「南ちゃーん!後でちょっと話聞かせてーえ。巧弥にばっかネタを取られてなるものかっ」
「あはははっいいですよーう。休暇中の大地さん引っ張りだしちゃったんで、基さんにも大サービス。うちの妹たちへのインタビュー許可しちゃいますね」
「よっしゃー!!」
拳を握る基を呆れた顔で見やって大地が言った。
「だいぶ絡むと思うけどよろしくね」
大奥総取締りの鶴の一声に、あんみつ姫と称された茉梨が、いの一番に小走りで勝のもとに駆け寄る。
「おっまたせーい」
勢いあまって(予想していたので)腕を広げた勝に飛びついた彼女を慣れた手つきで抱きしめて勝が言った。
「・・・お前ってアレだよな。絶対こういう期待裏切らないよなぁ」
「お褒めに預かり光栄です。イエイ」
「・・・どんなエンジン積んでんだよお前」
「無敵の茉梨エンジン搭載よ?」
「・・・あーそーだよなー」
「あんたが一番知ってるでしょうに」
茉梨の後に続いて、大河のもとにやってきた佳苗が可笑しそうにつぶやいた。
「・・・・本当に強いのは・・貴崎さんなんだぁ・・・・」
差し出した手を、笑って握り返した佳苗の頬を撫でて大河は頷いた。
「・・あの、矢野茉梨を捕まえたんだもんなぁ」
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