第3話 あたしがあなたを好きなわけ

いつもの部屋で、南は後ろから巧弥のパソコン画面を覗き込み、眉間に皺を寄せた。


「なんでシリーズ化してんの」


画面に映っているのは、南をモデルに書き上げた短編推理小説。


カッコイイ主人公ならまだしも、ドンくさい女子高生が、喋る猫と二人(?)で事件を解決するというコメディタッチの小説だ。


モデルが自分だと聞かされていなければ、もっと手放しでこの作品のシリーズ化を楽しめたかもしれないけれど、キャラクターのそこかしこに感じられる望月南らしさは、読でいるとむず痒くなったり、情けなくなったりしてしまう。


文才のある彼なのだから、ほかにいくらでも脚色しようはあるだろうに、よりによってコメディなんて!と詰ってやりたい。


「載せてみたら意外と人気でさ、この際シリーズ化してみようかなと。ネタも切れそうにないし」


そう言って、意味深に南を見て笑う。


これから先、南が彼の前で見せる色んなおっちょこちょいな場面が、文章になって残されるのかと思うと、今すぐ布団を被ってしまいたいくらいだ。


ちょっとはあたしに愛情感じてると思ってたのに!!!!


「ならせめてもうちょっとカッコイイ女探偵にしてよね!」


「美味しいところを相方のサスケに取られるのがこの本の醍醐味でしょ」


「あたし全然面白くないんですけど」


「ちゃんと脚色して面白くしてやってるだろ?この間の、デパート迷子事件とか・・・」


「キャー!昔のこと引っ張り出さないでよ」


「つい2週間前だろ?」


「・・・」


ジト目で巧弥を睨みつける南。


何を言っても一枚上手の彼に敵うわけがない。


必死に反論を試みたが何のアイデアも浮かばない。


南は悔し紛れに言ってやる。


「性格悪っ!!」


「あれ、知らなかった?」


全く悪びれずそんな風に返す巧弥。


「知ってたわよ。うんざりするほど学習済よ」


ここに来たときから、そんなことは百も承知。


それでも。


「そこまで酷くないと思うけどな」


「自覚が無いって一番最低よね。あたしやタイガに感謝してもらわなくっちゃ!それでも一緒に居てあげてるんだからね」


腰に手を当ててふんぞり返る南。


そういうところが自分の作るキャラそっくりだと思うのだが、口には出さない。


「居てくれてるんだ」


「そーよ。仕方なく居てあげてるの」


「ふーん」


こういう言い方をしても、南の真意は手に取る様に分かっている。


それを、南も気付いていて、けれど言わない。


悔しいからだ。


いつだって認識させられるのは自分の方で。


いつかこの人を、振り回してやりたいと思っているけれど。


規則正しくキーを叩くその長い指を見て思う。


「なんで好きなんだろ」


思わず口をついて出たその言葉。


缶を机に戻した巧弥がキョトンとした顔でこちらに向き直る。


「理由なら知ってるよ」


呆れ顔でそう言って、次の瞬間勝ち誇った顔南の腕を引いた。


「教えてほしい?」


答えにNOが無い事も、きっと知ってる。

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