正
背広姿の男が2人、薄暗い廊下を歩いている。
肩の黒い腕章には公安九課特殊遺失物捜索係と仰々しく刺繍が入っている。
男たちは一つのドアの前で立ち止まると深呼吸をした。
木製のドアには真鍮製の丸いドアノブが付いているが鍵穴は見当たらない。
ドアの隣には小さな椅子と屑籠があった。
では服部さん、僕はここで待たせて貰いますね。
口調から察するに部下だと思われる男は椅子に腰掛け、
ポケットから取り出した黒い包帯のようなものを自分の顔に慣れた手つきで巻き始め
た。
神谷君さ、いつまでそんな旧式使ってるの?
いつまでってこれからもずっとですよ。こないだ支給されたのも使ってみましたが、どうも着けている感覚が無くてしっくりこないんですよ。ボタン一つで楽々装着って。
ボタン一つじゃ心許ないですよ。それにこっちの方が格好よくないですか?
神谷誠は手を止めるという事をしない。何事においても一つに集中する事は視野を狭め判断を誤るきっかけになると信じているからである。常に何かをしながら何かをしている。
今この瞬間も上司の質問に答えつつ片耳のイヤフォンでは今週の予定を確認し、一日のタイムスケジュールを逆算している。
ふーん。意外と懐古主義者なんだね。
と服部はボサボサの前髪をかき上げながら言った。
ちょっと違いますね。、いつの時代も良いものは良いんですよ。
そういうもんかねぇ。
溜息交じりに服部がつぶやく。
それを言ったら覆装帯もつけずにあの子と会ってる服部さんの方がおかしいですよ。
失礼だろ?人と会うのに顔を隠すなんて。
当たり前の礼儀だよ。
命を掛けて礼節を重んじるのが怖いって話です。
まぁ人それぞれ大切にするものは違うさ。
それじゃあ行ってくるから帰還座標だけ頼んだよ。
服部は紙袋から買ったばかりの缶コーヒーを出すと屑籠へと投げ入れた。
殆ど同時に無数の金属が擦れ合う様な音が響き、ドアが上へとせり上がり始めた。。
神谷君も一度話をしてみるといいのになぁ。
遠慮しておきますよ。
と言って神谷は文庫本サイズのデバイスを取り出ししっしっと服部に振って見せた。
実体験に勝る学びは無いのになぁ。
少々呆れた様子で服部はドアの中へと消えていった。
中へ入るとドアの外側の景色は歪み先ほどまでの廊下は見えなくなった。
8畳ほどの部屋にベッドが一つ。奥には天窓の付いたサンルームがある。
床も壁も天井も真っ白に塗られている。
部屋中に本や図鑑、専門書や辞書が散乱し、
壁際にもうず高く積まれているので今にも崩れてきそうな不安感にかられる。
しかし寝床と思われるベッドの上だけは綺麗に整えられていてシーツに皴一つ無かった。
服部さん。この机もう少し大きいのに変えてもらえない?
サンルームで学習机に向かっている少年が振り返りもしないでそう言う。
上に頼んでおくよ。元気にしていたかい?
多分、服部さんよりはね。
服部はフフっと笑いながら、
自分の脇腹辺りをさすった。
また話を聞かせてもらおうと思ってね。
話?何の?
何って。決まってるじゃないか。
落とし物でしょ。分かってるよ。
そう、君の大事なオトシモノの話さ。
前回は丁度2か月前だったかな。君が言ってた『永遠』ってやつ。
時間は掛ったけど見つかったよ。
本当に!?
ああ。ほんとさ。ただ確認できただけで拾えなかったみたいだ。
新入りの収拾員が発見した。しかし気付いた時にはもうなくなっていたらしい。
そうか。。どんな形をしてたの?
報告書を見るかい?
そう言って服部は紙袋からファイルを出して少年に渡した。
そうか。女の子と傘。
でもこれだけではそれが本当に永遠かはわからないよ。
これを見てもそう思うかい?
男は背広のポケットからビニールに入ったひび割れたビー玉と煙草の箱を取り出して
少年に見せた。
これは、結晶。オトシモノの欠片だ。
そう。少女が収拾員に渡したらしい。興味深いだろう。
そしてこの煙草。
これもあちらの世界から持ってきた物だ。
まさか。。
いや、紛れもない真実さ。
その証拠に。
背広の男は煙草の箱をライターで炙って見せた。
色んな実験をしてみたよ。
しかしそのどれもこの煙草の箱を燃やすことも壊すことも出来なかった。
つまりこちらの世界ではこの箱に干渉することが出来ないみたいなんだ。
あり得ないよ。オトシモノ以外の物を向こう側から拾ってくるなんて。
それが出来てしまった。
何故かわかるかい?
今までそんな事は。。いや、でも、、、、もしかして。
そう。彼女が触れてるんだ。永遠がね。
これに関しては詳しく調べているところだよ。
長くなってしまったが本題に入ろう。
最近夢は見たかい?
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