第13話実戦_大腿筋


地面に俯せたまま待つワタシ。


素肌が触れる太腿から、ジンワリ冷気が伝わる。

客室係のミニスカートの所為。


腰回りもヒンヤリしてくる。

が、もう少しと思って、冷たさを堪える。


そこに、小柄な方の男の足音。

通りを曲がらずに、走り過ぎていく。


少しホッとする。


遅れて、大柄な男が息を切らして来る。

通りの角で立ち止まる。


その場で、息を整える気配。


息の間から、どこかの国の言葉。

先を行く小柄な男と、大声で何かやりとりする。


直後に、大柄な男が、角を曲がって来る。


手分けして探す気らしい。


奴が、こちらの通りに、入ってくる。


大柄な分、走るのは苦手なのだろう。

通りに入ってからは、呼吸を整えながら、ゆっくりと歩いている。


地面に腹這いのまま様子を伺うワタシ。

早く行ってと願う。


客室係の制服を通した地面の冷たさ。

流石に身体に沁みてくる。


バスローブが開けている所為。

下腹部の冷たさが、堪えられなくなりそう。


今は駄目!

自分に言い聴かせる。


が、次の瞬間。


「…ックシュンッ…」


堪えられないワタシ。

こんなときに。

もうっ。


自分に悪態をつく。


大柄な男が、こちらを凝視する。


ここは、腹を極めるしかない。

植え込みの陰から、立ち上がるワタシ。


大柄な男が、ニヤリと笑って、指笛を吹く。

間もなく、小柄な男も合流するだろう。


さっさとケリをつけよう。


開けたバスローブを、背中に落とす。

左手で、キャッチする。


大柄な男が呼吸を整えて、まっすぐ歩いてくる。

距離が詰まる。


今は、植え込み二つを対角に挾んでいるだけ。

暫し対峙する。


大柄な男が、もう一歩踏み出す。


次の瞬間、ワタシは奴に向って、猛然と駆け出す。


勢いのまま、植え込みの囲いを踏む。

それを踏み台にして、高く跳ぶ。

と同時に、奴に向ってバスローブを投げる。


広がるバスローブが、奴に目隠しする。


奴の斜め上方に跳んだワタシ。

バスローブごと、パンプスの踵で後ろ回し蹴り。

確かな手応え。

いえ、脚応えかしら。


奴が、バスローブを被ったまま、ふらついて頽れる。

片手片膝をついて堪える奴。


ワタシは、着地したその脚で、再び跳ぶ。

奴に真っ直ぐ跳び付く。


両手で奴の頭を圧える。

それを支点に身体を回す。

そのまま両脚で、奴の頭を跨ぐ。


剥き出しの大腿筋が、背中から奴の首を挾む。

バスローブの上から両脚で締める。


白いバスローブに赤い染みが広がる。

目隠しされた奴が、片膝立ちのままワタシを掴む。


気にせず更に両脚を締め上げる。


闇雲に動く奴の太い指。

剥き出しの太腿を弄られる。

太い指は、太腿からスカート、そしてシャツブラウスへと伸びてくる。


が、今緩めるワケにはいかない。

今緩めると、自分が負けるのは分かっている。


奴の意外なタフさに、武道の大会ではない、本物の、実戦の怖さを思い知る。

早く、おちて。


このままでは、こちらがもたない。

仲間も戻ってきてしまう。


そう思うと、パンプスを交差して両脚をロックする。

最後の力を振り絞る。

大腿筋が悲鳴を上げる。


…もう、駄目…。


思ったその時、奴の巨体が前のめりに崩れる。


倒れる奴から両脚を外す。

そのまま奴の背中に、仰向けになる。


荒い呼吸のまま、奴の背中で上体を起こす。

倒れた奴の背中に跨っているワタシ。

大きく肩で息をする。


奴の首筋に触れる。

脈はある。


その間に、呼吸を整える。

そして、漸く立ち上がる。


パサっと音がする。


ふらつく足元を見る。

クリップの外れた、客室係のスカートが落ちている。


あらためて気付く。


客室係のベストは、開けている。

シャツブラウスもボタンが跳んで、解れている。


素肌に身に着けた、キャミソールが露になっている。


シャツブラウスに辛うじて残ったボタン。

震える指先で、二つ外す。

武者震い?


シャツブラウスをベストごと脱ぐ。

手にしたそれを、落ちたスカートの上に抛る。


客室係の制服だったものを一瞥する。


ワタシは、通りの真ん中で、ふらつきながらも仁王立ちになる。


上半身は、カップ付きキャミソール。

下肢は、ショーツにパンプスだけ。


不意に外気の涼しさに粟立つ。

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