第10話縛め_痺れ


ちょっとだけ瞼を閉じる。


そのまま微睡みそうになって、不意に、我に返る。

いけないっ。

寝てる場合じゃないわ。


気怠さの残る身体に、言い聞かせる。


ベッドに俯せのまま、後ろ手の掌に三つのモノを感じ取る。

ペン、ペーパーウェイト、ペーパーナイフ。


ひとまず、ペンを指先でベッドに放る。

お尻のヤマで弾んで、ペンが腰の傍に落ちる。


後ろ手の左指先で、ペーパーウェイトを掴む。

右の指先に、ペーパーナイフを挟む。


ペーパーウェイトを、後ろ手に縛られた両手首とロープの隙間に、強引に押し込む。

手首の締め付けが、キツくなる。


右手のペーパーナイフを、しっかりと掴み直す。

左の指先でロープの結び目を探す。


探り当てた結び目に、ペーパーナイフを深く刺し込む。

結び目に突き立つペーパーナイフ。

そのまま捻る。


手首に圧迫感が伝わる。

同時に、またしても強烈な痛みに襲われる。

スリムパンツの鼠蹊部。


両手の動きは小さいが、捻りがロープを引っ張っている。

その所為で、縛めの仕掛けが、如何なく発揮される。

想定以上の痛み。


ひと呼吸置いて、ペーパーナイフの捻りを元に戻す。


呼吸を整え、もう一度捻る。

またロープが食い込む。

痛みに呻きそうになる。


が、そのまま暫く堪える。


捻りを戻す。

同じ動作を繰り返す。


堪え続けられるだろうか。


何回目だろう。

腰全体が痺れてきている。

鼠蹊部の感覚も朧げになる。


これ以上繰り返すことは、ロープを解けたとしても、寧ろ逆効果になりそう。


ジンジンする腰を抱えたまま、呼吸を整える。

両手でペーパーナイフを抜き取る。


そのまま放る。

お尻に何か落ちる感覚もボンヤリしている。


痺れる腰の上、覚束ない両手指先で、手首のペーパーウェイトを外す。


手首とロープに、思った以上に隙間ができている。

ロープの結び目を探して、後ろ手のまま緩め始める。


多少痺れの出始める両手。


なかなか思うように動いてくれない。

が、ここで諦める訳にはいかない。


少しずつだが、ロープが緩む。


ようやく、両手首が動かせるほどに緩む。

身体の柔らかさを、最大限に利用する。


ロープを締めつけることなく、手首を抜く。

両手が、やっと自由になる。


ほぼ一晩中縛られていたので、血流が悪い。

後ろ手のまま、両手首と掌を合わせて揉み手のように動かす。


複雑に絡むロープは、一箇所のテンションが外れ、既に全体が緩み始めている。


両手首が、痺れから解放され疼きはじめる。

それを合図に、両肘から前腕を、背中からお腹の下に回す。


俯せの身体を転がして、ベッドの端に辿り着く。

そこから、ベッドの外に下肢を投げ出す。


お尻から上だけが、ベッドに横たわる。

両腕でベッドを押しつけて、お尻を起点に上体を起こす。


何とか、ベッドの端に腰掛けることに成功する。


キャミソールの胸を、挟むようにして回っているロープ。

肩から頭に、シャツでも脱ぐように外す。

上体が解放される。


上半身が自由になったところで、まず目隠しを剥がしにかかる。


またも肌細胞を持っていかれる。

テープが頭を一周しているので、今度は髪の毛もいくらかテープに抜け落ちる。


瞼を薄く持ち上げる。

そのまま、光に慣れるのを待つ。


その間に、顎から首筋をまわる口元のテープを剥がす。

また髪の毛が、引かれて抜け落ちる。


そのまま頬の肌細胞を剥がしなから唇が引かれる。

唇が、子供がチュウするみたいになる。


大きく深呼吸する。

生き返るように感じる。


そして瞼を瞬く。

目が慣れてくる。

やはりホテルの一室らしい。


厚手の遮光カーテンが引いてあるが、端の方に微かに光のスジ。


それだけ確認すると、腰から下に残るロープを解き始める。


腰のロープは少し複雑だか、半ば強引に緩みを広げる。

両手が入るほど緩むと、ゆっくりベッドサイドで立ち上がる。


腰の両サイドのロープを、両手で掴む。

下肢のロープを、タイツかストッキングでも脱ぐように、外していく。


膝下まで下ろすと、両手を放す。

ロープが落ちて、バサッと音を立てる。

スリムパンツの足下。


まるで抜け殻のよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る