第9話縛め_スリムパンツ


摺り足のままのパンプス。


踏み出したくなる気持ちを、辛うじて堪える。

少しずつだけど、想定する方向に進んでいる。


シングルの部屋なら遠くない筈。

そう願うワタシ。


ようやく腰がぶつかる。

固い何かに。

その分、ロープの結び目が身体を穿つ。


その場で、慎重に反転する。

よちよち歩きのペンギンみたいに。


ぶつかったモノを、後ろ手のまま指先で探る。


デスク?

形状と感触から想定する。

指先を形状に沿わせる。


あった?!

指先が、引き出しと覚しいものに触れる。

取っ手らしきものを、指先だけで摘む。


そのまま身体ごと、前に摺り足する。

デスクから離れる身体に、指先が引かれる。

その先で引き出しが開く。


ある程度開いたところで、後ろに摺り足する。


お尻が引き出しにぶつかる。


指先で、開いた引き出しを探る。

引き出しには何もない。


がっかりしそうになって、ふと閃く。


思わず、肘を曲げて、引き出しの奥に指先を這わせる。

肘を曲げた途端、仕掛けが食い込む。


ロープが、スリムパンツの上から強烈に襲う。

ワタシの鼠蹊部を。


涙が出そうになる。

が、痛みを堪えて探り続ける。


指先には、ハガキか便箋らしいモノしか触れない。

使えるモノは、何もない。


せっかく痛みに耐えたのに。


腰全体に痛みの余韻を感じながら、お尻で引き出しを押す。

スリムパンツのお尻に押されて、引き出しが閉まる。


そのまま、再び指先だけで探る。

伸ばした指先が、デスクの上を這う。


指先が、何かを感じ取る。


細い棒状のもの、ペンか?

丸みのある塊、ペーパーストーン?

それから、刃のないナイフ状のもの、ペーパーナイフ?


目隠しの頭に思い浮かべる。

???!

使えるかも。


意を決する。


後ろ手の肘を曲げて、三つを両掌に抱える。

同時に、強烈に食い込む仕掛け。


三つのモノを持つために、後ろ手の両手を上げ、背中に寄せる。

強烈な食い込みが止まない。


痛みが継続する。

次第に、痛みが深くなる。


無意識に涙が溢れる。

それでも、歯をくいしばる。


三つのモノを手にしたまま、元の方向に向う。

ベッドがある筈の方へ。


摺り足の下肢まで、痛みが広がり始める。


スリムパンツの太腿が、ベッドサイドにぶつかる。

そのまま倒れこむ。


ベッドに突っ伏した瞬間、反射的に両手を伸ばす。

が、痛みは、まだエコーのように繰り返す。


手足を動かさずに、暫くジッとしているしかない。

痛みの波が、少しずつ弱くなる。


が、腰の辺りは、熱く痺れたようになっている。

それが全身に広がる気がする。


気怠さに眠りたくなるワタシ。

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