第4話幻覚_五感
○幻覚_五感
軽やかなブロンドが揺れる。
笑いかける彼。
背中を見せて去っていく。
追いすがるワタシ。
彼との距離は、縮まらない。
必死に駆け出す。
踵の高い靴で転びそうになる。
辛うじて堪えて、走り続ける。
ゆっくり歩いている筈の彼。
何故か、ますます小さくなる、後ろ姿。
息を切らして、泣きそうになるワタシ。
声にならない叫び。
「bishop~」
…
ふと、埃っぽい臭いが鼻をつく。
夢?幻覚?
真っ暗闇?
ではない。
瞼が、持ち上がらない。
目隠し、されてる?
全身が気怠い。
意識もボンヤリ。
口も鼻も、靄がかかった感じ。
深く呼吸しようとする。
と、思わず噎せる。
が、口が開かない。
そのとき初めて気付く。
口元を何かに覆われていることに。
鼻だけで、ゆっくり呼吸する。
何度か繰り返す。
少しずつ、口と鼻の感覚が蘇る。
身体の中に空気を感じることで、徐々にだが五感を取り戻す。
目隠しの僅かな隙間。
微かだが、瞼に光を感じる。
自然の光か部屋の灯かは、わからない。
ゆっくり口から息を吐く。
僅かな隙間から、空気が漏れていく。
口元の何かを、口を尖らせるようにして吹いてみる。
唇に、粘りつく感触。
漏れた息で、鼻にあがる臭い。
目隠しの下で、微かに感じる光。
この臭いと透過具合?
幅広のテープ?のようなものかしら。
感覚が戻り始めると、横たわっていることに気付く。
ただ起きようとする。
が、手足が動かせない。
あらためて、手足に縛めを感じる。
横たわったまま、五感の戻る身体を感じ取る。
両手は?
後ろ手。
手首の辺りを縛られている。
指先に、ごつごつしたロープ状のものが触れる。
両肩から肘は、締め付けられてない。
上半身は、両手以外に縛めはなそさう。
下半身は?
大腿部から膝下、脹脛には圧迫感はない。
足首は、踝のあたりを縛られているらしい。
砂埃?でざらざらした床は、固いコンクリートのよう。
空気感というのか、風の通り具合から、部屋というより、広いスペースの一角にいるように感じる。
埃っぽい臭いと感触から、身体中が、決してきれいな場所ではない、と言っている。
近くに、人の気配は感じない。
たかが女子大学生が、泣きもせず、なぜ落ち着いて状況把握できるかって?
ワケは三つ、かな。
まず、小さい頃からの躾と護身術。
次は、現在アルバイトアシスタントを務める彼からの影響。
そしてもう一つは?
…今は、まだわからない。
小さい頃から、何か困ったときほど五感が鋭くなり、妙に冷静になることがあるワタシ。
などと暢気に物思いに耽ってはいられない。
人気のない今のうちに。
脱出を試みる。
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