第3話ビショップ_油断


同じ場所を凝視したままのワタシ。


長身にブロンドの彼が、学部棟の陰に消えてから。

ウィンクで固められたかのように。


ふと、我に返って、通用門の方へと向う。

広々としたキャンパスから、ひっそりとした木立ちを抜けていく。


と、後ろから右腕を掴まれる。

有無を言わさぬ強引さと力強さ。


気配はなかった筈。

咄嗟に身体を捻る。


掴まれた腕に捻りが伝わり、難なく相手に腕を解かせる。


振り返ると、黒いスーツに短髪の巨漢と言えそうな男が、びっくりしたような顔をして立っている。


まさか、こんな格好の女子学生がとる反応に思えないらしい。


彼に会うために少しお洒落をして、キャミソールに薄手のカーディガン。

羽織るだけのスタイルに、白いスリムパンツ。

サブリナほど短くはない。


半身に構えて、男との間合いを計る。


巨漢の目付きと立ち上る気配が、チャンスは一瞬と言っている。


次の瞬間、巨漢が躊躇、何かを待つ気配?


いくしかない。

空かさず回し蹴り、一閃。


白いスリムパンツの先のパンプス。

尖った爪先が、スウェーで躱す男の鼻先を掠める。


男が、血の混じった唾をはく。

警戒した男が後退る。


一歩踏み出すワタシ。

更に、もう一歩。

前蹴りの届く距離。


目の前の男に気をとられ過ぎ。

悪い癖。

気づくのが遅れる。


もう一人に、背後から抱きすくめられる。


反射的に、左脚を後ろに踏み蹴る。


避けられる。


パンプスの踵が、地面にめり込む。

同時に、頭を勢いよく仰け反らせる。


もう一人の男が、ワタシの右肩に吸い付くようにして避ける。

臭い息が、首筋から鼻へと上ってくる。


餃子かキムチでも食べた後のよう。

そんなことがよぎり、まだ余裕があると思う。


油断?


次の瞬間、右腕がチクッとする。


ナニ?

思うのと力が抜けるのが同時。

薄着のお洒落が裏目。


意識が遠のく。


「…bishop…」


声にならないワタシの声。

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