第2話ビショップ_アルバイトアシスタント


お昼のキャンパス。


講演会講師の彼と、並んで歩くアルバイトアシスタントのワタシ。

二人でキャンパスの中央を横切って、通用門に向う。


そこかしこに散らばる学生達が、こちらを振り返る。


ワタシはキャミソールにカーディガン、薄手のスリムパンツ、少し踵の高いパンプス。

まだ薄着になることも多いこの季節、カップ付きだからブラは着けない。

そんな格好で、日本人女性にしては長身に見えるワタシ。


でも注目されているのは、ワタシではない。


ここは、4年制だが女子大のキャンパス。


頭一つ上から、寄り添うように顔を向けて話してくる。

隣を歩く、背の高いブロンドのブルーアイズ。


風貌がハリウッドスター級、一昔前のタイプだが。

となれば、ワタシだって振り返りたくなる。


内緒でワタシの中では、勝手にbishop(ビショップ)と呼んでいる。


短い間に色々擦り込まれすぎなことは、自分でもよく分かっている。

痛いくらいに。


彼が、吸い込まれそうな青い目でワタシを見て、言う。

「車をまわすから、先に行って待ってて」

「はい」


二十歳のワタシからは、多少若くても社会人として働く彼は、充分に大人。

憧れるに足る存在。


ましてや、教授の信頼も厚いハンサムなアメリカンなら、何をかいわんやである。


日本人男性と並んで踵の高い靴を履いていると、こちらの目線が高くなることもある。

そんなワタシが、踵の高いパンプスを履いても見上げる彼。

ホントに、心から見上げる存在。


彼に勧められてサーフィンを始めてからは、ワタシの髪も赤茶けて脱色してしまっている。

薄いサングラスをかけて、彼と並んで歩くと、外国人カップルと間違えられることもよくある。


そんなことを思いながら、学内の駐車場に向かう彼の後姿を見つめる。


駐車場は、この先の学部棟を右に折れて、少し進んだエリアにある。

あの角を曲がると、しばらく見えなくなる。


と、角を曲がりながら、こちらに手を上げてウインクする彼。

そんなことが、気障にならずに、さりげなく様になる。


知らぬ間に、胸に片手を上げて、彼に応えるワタシ。

すぐに恥ずかしくなって、まわりを確認する。


こちらを見て、微笑ましそうに笑う学生もいる。

が、自分が思うほどは、注目されるものではない。


寧ろ、彼を追う視線の方が圧倒的。

如何にも女子大らしい。


ワタシも、彼と彼女の仲なら嬉しい。

が、今はただ、雇用主とアルバイトアシスタントだけの関係。


多分…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る