スパイパラダイス・デビュー〜debut into the spyparadise

ビショップ(bishop)

第1話プロローグ

○プロローグ


もう今年も学園祭のシーズン。


去年は、友達と学内をそぞろ歩いて終わっている。

何も知らない一年生。


学園祭の後に、先輩達から聞いた話。

この時期は、安心してできる割りのいいアルバイトが多くあるらしい。


女子大とは言え、4年生の学校。

特に研究室は、成果をアピールするチャンス。


そのため、いろんなイベントや製作物に、教授も学生も奔走する。

そこで重宝されるのが、コールセンター代わりの電話番。


今年は、ワタシもある研究室の電話番アルバイトに応募する。


なぜか、応募用紙には、専攻したい分野と特技を書く欄がある。

専攻したい分野には、お世辞ではなく教授の研究分野を書く。

特技は、小さい頃からやっている護身術。


その研究室は、毎年、外部講師を招いて講演会を開催している。

ワタシも興味ある分野だし、アルバイトには丁度いい。


そこの研究室の教授が、日本に駐在するアメリカ機関の職員と親交があるらしい。


上手くすれば、ワタシも友人の一人にしてもらえるかも。

などと少し邪な思いも込めている。


すぐに決まるかと思っていたが、意外に応募者が多いらしい。


ある日、面接代わりに研究室に呼ばれる。


扉を開けて研究室に入ると、部屋にいる人達は、皆忙しそうに立ち働いている。

誰も、ワタシのことなど気にも留めない。


皆が声を掛け合い話している内容からすると、急な予定変更で、その対応におおわらわといった様子。


そんなことを感じながら、何気なく部屋を見渡す。

と、研究室の奥にある教授の部屋の扉が開く。


扉の陰から、教授とブロンドの外国人男性が出てくる。

そのとき、その長身の外国人が、まっすぐこちらに視線を送る。


思わず振り返って、背後を確認する。

が、誰もいない。

見られているのは、ワタシ?


不意に、身体を固くするワタシ。

彼が、ワタシの方を指しながら、教授と何か話す。

教授が、何度か頷いて応えているのが見える。


すると、教授がワタシの方に、手招きしながら言う。

「きみ、ちょっと、こっちに来てくれないか」

「はい」

返事をして、入り口から足早に教授の前に行く。


「きみ、アルバイトに応募してるね」

「はい」

「こちらは、今回予定変更で講演いただくことになった講師の方だ」

「はっはじめまして…」

頭を下げて挨拶する。


顔をあげ、長身の彼を見上げる。

ハッとするほどの青い瞳をしている。


吸い込まれそうと思いながら見ていると、教授が続ける。

「こちらが、きみを雇いたいそうだ、電話番ではないけどね」

「えっ、何をするんですか?」

思わず、青い瞳の彼に向かって訊いている。


彼が、微笑みながら白い歯を見せて、流暢な日本語で応える。

「そうだな、講演をするまでのアシスタント、というところかな」

「アシスタント?…ワタシに務まるでしょうか?」


「無理は言わないよ、学業に支障のない範囲で構わない」

「具体的には何をすれば…?」


「講演のための、調べ物や資料集めと思ってくれていいよ」

「図書館とかで…?」


「それだけじゃないけど、似たようなところかな」

「わかりました、よろしくお願いします」

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