店主の身内

 ライバル店主が去ってから数日後、ライバル店主の娘さんが来店した。


 彼女本人はばれていないと思っているようだ。

 

 コーヒー豆の買い付けなんかに同行しているからバリスタを目指しているのだろうか。研修中なのかはわからない。ちょくちょく見かける子だ。

 

 なぜ娘とわかるかって?

 チェーン店の店長だが、もともと何かの飲食店をしていたようで顔見知りが多く、娘さんの話をしている。

 それに店主の親父さんと娘さんは目元がすごく似ている。

 きっと実力が付いたら同じ企業に入れたいと思いもあるはずだ。


 そんな裏事情は置いておいて提供するものはしないとならない。

「このお店のコーヒーはおいしいですね」

「ありがとう」

 初めて声を聴いたが、透き通る声できれいな子だなと感じる。

 会計の時に「また来ます」と言ってくれた。

「いつでもどうぞ」

 と返した。


「小説小僧の餌食にならないといいが」

 もうなっている気がする。

 面倒ごとにならないといいのだが。

 

 マスターは日常に戻っていく。

 その日を境によくいらっしゃるようになった。

 高校生2人組と話すようになり、待ち合わせして来店するようになった。

(仲が良くて何よりだ)

 この空気を気に入ってくれたらこんなにうれしいことはない。




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