第4話 守秘義務の理解

 「守秘義務ですか?」

 彼は守秘義務に関する私の話を聞いているのかいないのか。最後の方は出勤日のたびに注意してきたというのに。


 どうやら聞いていなかったようだ。


 結局、彼の言動は夏休み終了まで続いた。


 受賞作を読んでほしいと掲載されている文芸雑誌を差し出してきた。


「マスター!! 読んでみてください」


「営業時間終わったらね! 可能であればカウンターに置いておいてくれるかな?」


 今は2人のお客様がいる状態だ。

 もてなすことも喫茶店店主の役目だ。

 彼は授業があるらしく営業終了前に出ていった。


 CLOSEにしたあと、レジ締め、店内清掃、使った専用ドリッパーの清掃をこなして少しだけ暇ができた頃。

 彼の特集ページを読んでみた。

 丁寧に付箋とページの端を織り込んであったからすぐに開けた。


 読んでいくに連れて眉間のしわは深く顔は険しくなった。


 確かに特定ができないようにいった。

 

 登場場面の学校と相談場所となる喫茶店がある。

 喫茶店の内装、雰囲気、私の姿まできっちりと文字に起こされている。


「これをぼかしているというのか?」


 店名は確かに出されていない。

 常連さんが見たらもしかしてこの喫茶店なのではと連想出来るだろう!


 間違いなく。掛けてある絵や写真、夏シーズンのBGMまで事細かに記されている。しかも店主の名前が同じ。


 これでは混ぜてあるという話もどこまで本当なのか怪しいものだ。


「ここまで刻銘に同じだとね……呼び出して説教だななぁ」


 嫌われたくはなかったのだ。

 だが、無断でここまで描写されては困る。


 世の中にはチヤホヤされたくて沢山宣伝する企業も山ほどある。

 しかし、落ち着ける雰囲気を大切にして行きたいがため、


 口コミ重視の営業の仕方もあるのだ。


 大学生のようだから彼にはまだ理解できないかもしれない。


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