第11話 うまい話には裏がある?
悪魔が過ぎ去りしばらくたったとある日、私の家を尋ねて来たのはもはや顔なじみとなった3人だった。
「あら? ソノラじゃないの、どうしたのこんなところまで」
「ちょっとね、貴女にお願い事があってやってきたの」
彼女はそう言うと、遠慮することなく椅子に座った。
「お願い事? いやよ厄介ごとは」
こっちはまだ左団扇生活を逃した心の傷がいえていないのだ。面倒ごとはごめん被る。
「厄介ごとじゃないわ。儲け話よ」
「ほう。話を聞かせてもらおうか」
私は頬杖ついていた手を組みなおし、前のめりになって彼女の話に意識を集中させた。
★
「ほーん。魔獣討伐ね」
依頼された内容とは、極々ありきたりな魔獣討伐だった。
「ええそうよ。ここから少し離れたラッコス村という所からの依頼でね。なんでも人食いの魔獣が住みついて困っているんですって」
「……依頼内容は分かったわ」
「そう! だったら――」
「だけど無理、貴女も知っているでしょ? うちのルードがただの見掛け倒しな事ぐらい」
そう、ただの痴呆が入った老犬に魔獣討伐など出来るはずがない。
私がそう肩をすくめると、ソノラはにっこりと笑ってこう言った。
「大丈夫よ、依頼内容は正確に言えばその魔獣を追っ払ってほしいという事なの。だからその魔獣の生死は問わないってわけ」
ほほう。それならば話は異なる。
野生の獣は基本的に自分よりもでかい生き物は襲わない。
それならば、ただの見掛け倒しのルードでも十分に役立つというものである。
私がそう考えていると、人間のほうのルードさんがこう叫んだ。
「何を戸惑うことがあるアリシア! 相手は罪なき村人たちを襲う悪逆非道なる血に飢えた魔獣だ! 正義の刃はここにあり!」
「あははは……いや、正義とかどうでもいいんですけど……」
そんなものではお腹は膨れない。信じれるものはお金だけである。
「大丈夫よアリシア、貴女が好きそうなものならたっぷりと用意してくれるそうよ」
ソノラはそう言って、依頼書の写しを見せてくれた。
「ほっほーう」
そこに書かれてる金額は確かに私も納得できるだけの金額だった。
「なかなかにいい額でしょ? そこの領地を治めている貴族がポーンと払ってくれるみたいよ」
ソノラはウインク交じりにそう言った。
なるほど、なるほど、なーるほど。
貴族と言う単語に思うことはあるが、それとこれとは話は別だ。
それだけのメリットがあり、こっちが出すリスクは極最小限。
それならば、考えるのもばからしいという事だ。
あの
「いいわ。その話乗ったわソノラ」
私はそう言って彼女と固い握手を交わしたのだった。
★
えっちらおっちらと一路ラッコス村へ、村へのアクセスは良いと言えば良い、悪いと言えば悪いという微妙な立地状況で、都市と都市を繋ぐ橋渡しとしてば微妙な位置にあった。
その原因としては村の背に広がる広大な森。深く豊かな森で日々の生活には便利だろうが、地図を俯瞰してみれば邪魔なんだろうなーと言ったところだ。
村に入り、依頼主である村長のところへと向かう。
まぁこんな村にルードを連れていくのは迷惑極まりないので、彼は村の外でお留守番だ。
「やあやあ! 良くぞいらしてくださいました冒険者様」
村長はそう言って満面の笑みで出迎えてくれる。
「おう! 俺様はルード・ファランクス! 民の悲鳴を聞きやってきた! 正義の刃ここにあり! 民草を脅かす悪逆非道な魔獣を退治する男だ!」
私はぼんやりといつも通りテンション高めのルードさんの言葉を聞き流していた。
それでふと疑問が心をよぎる。
(なーんか、あんまり切羽詰まった感じはしないわね?)
依頼には森に住み着いた人食いの魔獣に村が脅かされているとあった。
だが、ルードさんと会話をする村長さんに、その焦りはあまり感じられない。
自分たちの生活圏内に、危険な魔獣が住み着いたのだ、それも人食いの魔獣となるとそれなりの被害が出ているはずである。
だが、村長さんの口から出てくるのはルードさんをたたえる、おべっかにも似たお世辞ばかり、村の惨状を訴えるような言葉はあまり聞こえてはこなかった。
(……んー、なんか気持ち悪いわねー)
けどまぁ、私にやることは変わりない。
「で、こいつはアリシアだ。彼女は何とあの伝説の魔獣ホワイトフェンリルを従える有能なるビーストテイマーだ!」
「あっ、ども。アリシアです」
ルードさんの案内に私はぺこりと頭を下げる。
「ホワイトフェンリル……ですか? ホワイトフェンリルとはまさかあの伝説の?」
「ええ、まぁ多分そのホワイトフェンリルです」
正確には「元」伝説のだ。
今のルードはただの痴呆が入った老犬だ。
「それは何と心強い! 貴女のような切り札さえあればあの魔獣などおそるるに足らずと言うものですな!」
「……あのー、それでその肝心の魔獣なのですが、いったいどういう魔獣なのですか?」
肝心の魔獣については人食いの魔獣と言う事しか聞かされていない。
まぁありえないだろうが、それが古代竜とかだったら、今のルードの手に負えりゃしない。とっとと尻尾を巻いて帰るだけである。
「魔獣ですか? ああ、私としたことが肝心なことをお伝えするのを忘れておりました。
村人からの報告から考えるに、オークの亜種だと思われます」
「なるほど、オークですか」
オークは豚人間ともいわれる魔獣で、その性格は狂暴にして貪欲。体格はがっしりとした人間と言った感じで、まぁ雑に言ってみればゴブリンの上位互換と言った感じだ。
(なるほど、オークか)
そうなってくると、正攻法では少し心もとないといった所。
なにせルードさんたちはゴブリンたちにも苦戦するまだまだひよっこの初心者パーティ。
その上位種となるオークともなると、まともに当たれば壊滅は免れないだろう。
(けど、ルードがいれば)
オークの背丈は人間とほぼ一緒。ならば体高2m・体重1トンあるルードの敵ではない。
(まぁサイズだけなんだけどねー)
ガチンコで向かってこられれば、その化けの皮はすぐに剥げてしまうだろうが、自分よりもでかい生物にガチンコで立ち向かってくる魔獣はそうそういない。
彼らは基本的に本能にしたがって生きる生物だ。自分よりも何倍もデカいルードの姿を見れば尻尾を巻いて逃げ出すことだろう。
「それで、ご依頼の内容は、そのオークをこの森から追い払うことで構いませんね?」
「ええ、森の平穏を取り戻して頂ければ、その手段は問いません」
「了解しました。それならば何とかなると思います」
オークを殲滅しろ、と言う話ならば、ルードの手に余るが、追い払うだけなら話は別。私がやることはルードを連れて練り歩くだけでいい。
例え、追い払ったオークが時間を置いて舞い戻って来てもそんなことは関係ない。私が命じられたのは「オークを追い払う」という事だけ。その後のことなど知ったことではない。
(またのご利用お待ちしておりますって感じか)
なんならば定期的なパトロールも提案してみてもいいわね。
それでオークが「ここの森にはバカでかい魔獣が住み着いた」と誤解してくれれば、完全なる排除も可能だろう。
一通りの情報を確認した後は、ソノラが細かい条件に付いて話を詰めた。そして私たちは森へと進むこととなったのである。
★
「村長。大丈夫なんでしょうか?」
アリシアたちが出ていった後の村長宅では村の有力者たちが集まって小規模な会合が行われていた。
「はっはっは。何を心配することがあるのですか?」
「あの冒険者たちの話を聞いて、村の外へ確認に行きました。ええ、確かにバカでかい魔獣がのんびりと眠っていました。あれが恐らく話に合ったホワイトフェンリルでしょう」
「おお、それは頼もしいという事ではないですか」
村長はにこにこと笑いながらそう言った。
「確かに、あれならば、例の魔獣と互角に渡り合えることが出来るかもしれませんが……」
「まぁ、それはどうでもいいことです。
予想外にあの魔獣をうち滅ぼせればそれはそれで大助かり。
あの魔獣に殺されてもそれはそれで想定通りです。
私たちは彼らの犠牲を盾に、さらに有利なポジションを得る事が出来る」
「ええ、それは分かっています」
「全てはこの村の発展の為です。
勇敢なる「村民」の犠牲が生じてしまった。その事実を盾に被害者ポジションをより強固にし、施工主からより譲歩を引き出すことは十分に可能です」
「はい、その通りです」
「ええ、あの森へ幹線道路が引かれれば、この村の発展は約束されたようなもの、全てはこの村の未来のためです」
村長は満面の笑みでそう言った。
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