第4話 作戦会議です!

「さてと、問題がひとつあるわね」

「そうだな、重大な問題だ」


 ソノラとシーザーさんはそう言って頷きあう。

 はて、一体何のことだろう。

 戦力的には不安はそれほどない筈だ。いや、もしかするとゴブリンたちにルードが張子の虎だと言うことがばれるかどうかを疑っているのだろうか、確かにそれは大きな問題と言えるだろう。

 私がそれを口にしようとした時だった。


「はっはっは! 何を恐れる! 問題なんぞあるものか! 正義の心を信ずる我ら一同が力を合わせて事に当たろうというのだ! ゴブリンなんぞ一網打尽よ!」


 ルードさんは呵々大笑してそう叫ぶ。


「おだまりバカルード。その一網打尽が大変だっていうのよ」

「ん? どういうことだ?」

「はぁ、アンタってホント考えなしねー。

 いい、ゴブリンたちはアリシアのホワイトフェンリルを脅威として確認した。その脅威が向こうからやってくるのよ? そしたら奴らはどういう行動に出ると思う?」

「あ……」


 そうだった、張子の虎がばれるのも問題だが、ばれないというのもそれはそれで問題だ。

 このバカでかいルードを隠しながらゴブリンたちの巣穴へと近づくのは不可能に近い。

 そうすると、脅威が迫った事を知る彼らはどうする? 決まっている一目散に逃げだすに決まっている。


「あってなによ、アリシア。もしかしてあなた――」

「ううん! 違うわよソノラ! もちろん最初から気づいていたわ!」


 ぐんと、ソノラに顔を近づけ、満面の笑みで精一杯の言いくるめを行う。

 あの単純一直線のルードさんと同レベル扱いされるのは、何というかー、そのー、正直嫌だ。


「そっ、そう。分かっているのならそれでいいわ」


 グイグイ来る私に若干引き気味のソノラはそう言って口を濁す。


「くくく、そいつは重畳だ。所で嬢ちゃんには何かいい案はないのかい?」


 シーザーさんはニヤニヤとした笑みを浮かべながら私にそう聞いてくる。

 くそう。ソノラには勢いで何とか誤魔化せたけど、彼にそれは通じなかったようだ。

 まぁいい、汚名返上だ。伊達に生まれた時からこの老犬と一緒に生活しているわけでないことを教えてやろう。


「そうですね。私にいい考えがあります」


 私はニヤリと笑うとこう言った。


「単純な話です。近づけばばれるのなら、近づかなければいいだけです」

「まぁ、そりゃそうだな」

「ええ。シーザーさんたちには囮として先行していただき、ゴブリンたちをひきつけていただきます。

 そうですね、理想とすればその時群れのリーダーも引きずりだして頂ければ文句なしなといったところですかね」

「そこを嬢ちゃんたちが急襲するってか?」

「はい、リーダーさえ倒せば後は何とか。少なくとも討伐完了と言っていいでしょうから」


 ゴブリンたちは集団行動を行う魔獣だ。その群れにはリーダーとなる個体が存在する。それさえ倒せば組織は瓦解する。少なくとも直ぐに再編とまではいかないだろう。


「ただし注意点が。リーダーも部下からルードの存在は聞き出していると思います。故にルードの存在を確認すれば真っ先に逃げ出すと思われます」


 ゴブリンにノーブレス・オブ・リュージュ等と言う言葉は存在しない。生存本能に従いやばいのが出たら部下を盾にしてにでも即座に逃げだすだろう。


「そうだな、そこは問題だ。だが、群れ全体を仕留める事よりは、狙いの一匹を逃がさないと言うのなら難易度ははるかに下がる」

「出来ますでしょうか?」

「確実に――とは約束できねぇがな。俺たちも自分の実力はよく知っている。まぁ一人を除いてだが」


 シーザーさんはそう言ってちらりとルードさんのほうを流し見る。

 だが、話のタネとなっているルードさんは自信満々にこう言った。


「はっはっは! 何を恐れることがある! この俺様は勇者王になる男だ! 高々ゴブリンリーダーの一匹や二匹、この俺様の名刀つらぬき丸で串刺しにしてくれるわ!」

「あれ? その剣、いかづち丸って銘じゃなかったですかね?」

「そうともいう!」


 ルードさんはそう言って堂々と胸を張る。

 あっ、駄目だこの人、確かにソノラが言う通り脊髄で物を考えてる。

 と、私が暗雲たる気持ちになっていると、ソノラはため息を吐きながらこう言った。


「いいわ、このバカは最初からあてになんかしちゃいない。

 けど、そうね、確かにシーザーが言う通り、せん滅よりもそっちのほうが成功確率が高いのは確かだわ。

 うん、大丈夫。私たちで何とか頑張ってみるわ」


 ソノラはそう言うと覚悟を込めたようにしっかりと頷いた。

 よし、稚拙ながらも一応の作戦は組み立てられた。後の問題は――


「で、そっちのルードはしっかりと動いてくれるのかしら?」


 そう、問題はその点だ。

 ルードが敵に近づくことが出来ない以上、連絡役として私がソノラたちに同行しなければならない。少なくともソノラたちの姿が確認できる程度の近くにはだ。

 そして、敵のリーダーが出現したことを確認し、それをルードに伝え、彼にはさっきみたいにジャンプして敵陣に飛び込んでもらう。出来ればその時に敵リーダーを下敷きにできれば御の字だが、そこは運任せと言うことだろう。


「ルード、大丈夫? さっきの話聞いてた?」

『ふぉっふぉっふぉ。わしに任せておれ。なーに相手は高々ーーーーーーー高々ゴブリンじゃろう?』

「……その間が気になるわね。あんた敵が何だか本当にわかってる?」

『ふぉっふぉっふぉ。なーに心配無用じゃ。あの時ドラゴンの大群を相手にした時に比べれば、文字どり朝飯前じゃて』

「朝ごはんはもう食べましたー。しかも何よドラゴンの大群って、また図体だけじゃなく話も大きいんだから」


 この老いぼれルードがドラゴンの大群を相手どる姿なんて想像できやしない。どうせまた過去の記憶を自分の都合がいいように改ざんしているだけだろう。


「いい、この作戦の成否はあなたにかかっているんだからね。肝心な時にポカしないでよ」

『ふぉっふぉっふぉ。なーに、わしはお前さんの契約獣じゃ、お前さんの危険をほおっておくような真似はせんよ』

「本当かなぁ……」


 不安は尽きることはない。だが、信じないことには進まないのも確かだ。

 ここは覚悟を決めるところ。私だっていつまでも医者の真似事をして糊口をしのぐ訳にはいかないのである。


「よし。こっちは大丈夫。私も覚悟を決めたわ」

「そう、頼んだわよアリシア。私たちの運命はあなたにかかっているんだからね」

「う……うん。大丈夫……だよ」


 そんなにプレッシャーをかけないでほしいが、何しろこれから行うのは命を懸けた戦いだ、ソノラの不安も無理はないだろう。


「はっはっは! なーに、不安になることはないぞアリシア! この俺様が付いているんだ! 大船に乗ったつもりでドーンと構えてろドーンと!」

『ふぉっふぉっふぉ。そこな人間の小僧の言う通りじゃ。お前さんにはわしがついておる、心配することなんぞありゃせんわい』


 うう……このルードコンビのお気楽さが憎い。

 私は胃をさすりながらソノラの顔を見てしっかりと頷いたのだった。

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