5-10 誠意の証
「えっ……と」
「物を渡しておけば良いと思われるのも腹立たしいが、何でも
「……申し訳ありません」
「今回は悪い話ではないと判断したから、これ以上は言わないでおくが」
あらかじめ
デューイも、これ以上言っても仕方がないと思ったのかため息を吐き出す。
「……それでおまえ自身は、当事者を外政室で
「……本人、まだ女性蔑視、中央権力主義が染み付いているのか、私に頭を下げる心境にはないようなので、こうなったら外政室で限界までこき使わせて貰います。年齢から言えばもうすぐ卒業で、取るべき授業ももうほとんどない筈ですよね? 具体的な話をすれば、
しれっとブラック企業もビックリな発言をしているキャロルだが、誰もそれを
皆そのくらいは仕方がないと、内心では思っているのだろう。
「あとまあ、これは本人には言って欲しくないですけど、最終的には書庫の蔵書を無意識の内に把握する事になるので、本人が将来本気で司書長を目指すなら、やって損はない筈ですけどね」
「室長殿……!」
僅かに目を見開いたサージェントに、キャロルは表情を変えずに、首を横に振った。
「誤解しないで下さいね、サージェント侯爵閣下。私はまだ、許した訳ではありませんし、本人が途中で挫折するなら、中央に残る手段はそこで
ころです」
本人の卒業後の進路に関しては、外政室での様子を見て、春にでもまた関係者を集めて判断すれば良いだけの話だとキャロルは思っている。
名指しされたストライドの方は、気にした風もなくむしろにこやかに微笑んだ。
「私は薬学本の編纂を進めたい人間ですよ、キャロル室長?
「奥方様同士の友情があっても、ですか?」
「私の妻は、そう言った優先順位を間違える人間ではありませんからご安心下さい」
「それは心強いです」
微妙な牽制を掛け合った挙句に、良い笑顔で笑うキャロルとストライドに、今日2度目の光景となっているサージェント以外が、それぞれの個性に応じてギョッとした表情を二人へと向けた。
それはキャロルと言うより、ストライドに対しての驚きようであり、視線に気付いたストライドが苦笑いを見せた。
「……どうもこの方と話をすると、私も取り繕えなくなるようなんですよ。まあ、
ああ……と、同意をしたのはエーレだ。
「それが
肝心の本人は無意識だし――と、
「私一人の
「光栄ですね。愚か者を一族に抱える、情けない当主ですのに」
「環境が整えばと申し上げました。それまでは〝誠意の証〟と主張しながら、キリキリお働き下さい」
言葉だけを取り上げれば随分な言い様だが、ストライドは、
この時、部屋に居並ぶ面々のストライド侯爵評が、油断がならないと思う方向で完全に一致した。
「ええ……もちろん。我が
差し向かいに座っていた、キャロルの左手を取り、触れるか触れないかと言った程度の口づけを落とした瞬間、エーレの片眉が跳ね上がった。
「……ストライド侯」
「私には唯一にして最愛の妻がおりますよ、陛下。今のは陛下の逆鱗を知れと仰った宰相閣下のお言葉を確かめさせて頂いただけで、それ以上も以下もありません。陛下の逆鱗――今ので充分に理解致しました」
先代が、愛妾の
その攻防を
ただ、ヤリスの当主就任に前後して始まったカティアの「認知症」が、当主夫妻を疲弊させていき、公都に残っていた
サージェント家とは異なり、誰を責める訳にもいかない事情がストライド家の方には存在していたが、異母弟側が早晩何かやらかすであろう事は見ていても明らかだった為、いったんはエイダルは様子見に回っていた。
まさかキャロルが、こんなにも早くストライドの心身を安定させて、中央政治に喰い込ませてくるとは、エイダルでさえ思ってもみなかった。
本当に、何故「茶会に出かけた筈がこうなる」――なのだ。
「ああ、あともう一つ」
エイダルの心境など知る由もないと言った
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