5-8 出頭要請
「キャロル様、痛みますか」
ジェラルド・サージェントを遠慮
普段は何てことはないと言う顔をしているが、あわや右腕切断と言う程の怪我が、3ヶ月で全快する筈がない。
「……お互い様でしょ」
「私はさして動いていませんよ」
素人とは言え、大の男を背負い投げしたキャロルとは違って、イオはただ、剣を木の床に刺しただけだ。
「イオ、その剣……」
剣を収めろとも、足を
イオは聞こえよがしな溜め息をついた。
「お察しの通り、ルスラン様の〝フランベルジュ〟ですよ。ご不在中の、代行職の象徴としてお預かりしました。キャロル様が
「何それ、ズルっ!」
「こんな、切り傷が不定形に肉を抉って破傷風を引き起こすような〝死の
「えー! だってルスラン、その剣だけは昔から試させてくれないのよ! 『ハマりすぎて、ろくでもない
「ねぇ? じゃ、ありません。可愛くお
「陛下、基本
ストライド侯爵閣下?」
「はっ⁉︎ ええ、まあ、そうでしょうね……しかし陛下を〝文無し〟とは……」
「あ、ごめんなさい。納税があって、政務があって、ある程度、皇族のための経費って言う、自由になるお金がある事くらいは分かってますって。それでも陛下ご自身は、いつまた前回の冬の飢饉のような事が、あるかも分からないって、雇用と経済を回すために必要と思しき出費以外は、全て特別費に回している筈だから、そう言う意味では文無しに近い筈ですよ?」
突然軽口を引っ込めたキャロルに、その場の誰もが息を呑む。
5年前、公国内の監査に付き合っていた間、エーレはキャロルにご馳走をしてくれたランチもケーキも「給料日前であまりお金が使えないから、ショーケースのケーキを片っ端からどうぞ……と言えなくてごめん」などと、真顔で言っていたくらいなのだ。
だからこそ、首席監察官と言われて疑いもしなかったのだ。
「いずれにしても、私もあまりドレスや宝石に興味がないので、情緒のあるお
皇室の有り様、経済の回り様をきちんと把握をしているキャロルに
「諦めて下さい、キャロル様。そもそも今、男爵家の私が侯爵家の御子息を
「男爵家当主と侯爵家子息って、貴方が思っているような身分の差はないけどね、
「……そうなんですか」
「そりゃ、そうよ。エライのは当主であって、回りは
「……ええ、まあ」
「あ、あとね? 昨日ストライド侯爵夫人に、今日この場で問題が起きたら、私が『教育的指導』で、
良い笑顔で親指を立てるキャロルに、ストライドもサージェントも愕然としたように、椅子に崩れ落ちた。
「貴女は……こうなる事を予期しておられたのか……」
「まさか! 今日この場で、何か起きやしないか、貴方の不利になったりしないか、心配しておられたのはジーン夫人ですよ、ストライド侯爵閣下。私は
「ジーンが……」
「そんな訳なので、
チョイチョイと、足元のジェラルドを指すキャロルに、二人の侯爵が息を呑む。
「いや、室長殿……しかし……」
「もちろん、なかった事には出来ませんけどね? たとえば宰相閣下の耳に入らないようにとかは、私がバラさなかったとしても間違いなく無理なので。だから、さっきのストライド侯爵閣下ご提案の三条件なんですよ。私に頭を下げる気がないんだったら無給で、早朝から深夜まで、使い潰させて貰いますよ。お勉強出来るんなら、嫌々謝られるよりも、そっちの方がよっぽど私の溜飲も下がります」
キャロル様、言い方……とイオが呟けば、ストライドが何とも言えない表情見せた。
「ああ……我が一族の
「室長殿……」
「申し訳ないですけど、未だに謝罪する気もなさそうなんで、サージェント侯爵閣下からの、
キャロルが、イオに向かって軽く片手を上げ、それを合図と判断したイオも、ジェラルドの上に乗せていた足を
「それじゃあ、遅刻すると宰相閣下のお小言が増えるので、このまま皆さん、宰相室に
――誰一人、それに「
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