4-2 お風呂は普通に入りたい ※
レアール侯爵家にしろエイダル公爵家にしろ、本邸は公都外の自領にあるのだが、ストライド侯爵家は本邸を公都に持つ、ただ一つの貴族
何十代も前に不祥事を起こして臣籍降下させられた皇族の流れを組むため、将来にわたって皇統を継いだり、皇族が降嫁する事はなく、皇位継承権を持つ皇族が、狙われるような事が起きた際の潜伏先として、存在する事を義務付けられた家系。
側室の身分、出身は自由だが、本家分家共に正妻だけは、他国から迎えて、いざと言う時の
ストライド家の本家分家当主と、歴代皇帝のみが知る不文律であり、各国に張り巡らされた伝手は、通称〝皇帝の箱庭〟として、長きに渡って、裏から
「まぁ、要は俺が大叔父上に叛旗を翻されて
「……エ……レ……っ」
……いくら最も聞かれる可能性が低いからと言って、まさかそれを浴室、それも、
それは今言う事かと――エーレの手が、間断なく身体中を滑り、唇が首元に幾つもの痕を付けていく、とても人様に言えない
共に闇夜を歩いてくれるなら、もう全部知ってくれて構わないから話した、と。
「明日、ストライド侯爵家別邸に行くんだろう?話題に出なければ知らないフリのままで良いし、何かの切り札に出来るなら、使うと良いよ」
「やっ……っ‼︎」
……意識と一緒に知識も飛ばさなかった自分を、誰か褒めてくれないだろうか……
* * *
「キャロル様、間もなく到着致します」
自分でも止められない、
公都から流れ出る川の先、湖沿いに街道を下った先にストライド侯爵家別邸は在った。
「確か、普段は先代侯爵夫人と側付の使用人だけで暮らしてるんだっけ……」
ヤリス・ストライドは確かに実父を追放はしたが、共に追放されたのは、義母にあたる側室。
とうに何十年も夫婦関係は破綻していて、ヤリスの実母、カーヴィアル出身の正妻は、ヤリスの婚姻を見届けたタイミングで独りずっとこの邸宅にいるのだと言う。
そんな両親を見てきたせいなのか、ヤリス自身側室を持っていない。
意外に
「ようこそお越し下さいました。当代ストライド侯爵ヤリスが妻ジーンでございます。本日は夫の我儘をお聞き届け下さり有難うございます」
ジーン・ストライドは、リューゲ自治領を動かす四つの領主家の一つ、トルソー家の現当主の
トルソー家当主自身は婿養子であるため、領主会議での発言権がそれほど大きくはないのだと聞いている。
濃紺色の髪色はともかく、褐色肌のリューゲ人の特徴がやや薄いジーンだが、むしろ黄色人種肌に近いためか、キャロルは何となく親近感を覚えた。
「また、夫からの謝罪とは別に
「レアール侯爵家長子キャロルです。この度はお招き有難うございます。一族の
ふと、ジーンの表情が動いた。
言いたい事を察したキャロルが「まだ奏上がされただけのお話ですから……」と、柔らかく微笑む。
エイダル公爵の縁者であると言う話が、恐らくヤリス・ストライドからいったのだろうが、ここは「まだ
「……本当に。夫が申しておりました通りに、慎重な方でいらっしゃいますのね。とても私と10歳も違うとは思えませんわ」
答えようがなく曖昧な微笑を貼り付けたままのキャロルに、ジーンも今日の趣旨を思い返したのだろう。玄関ホールから優雅に身を翻した。
「お
「えぇ、もちろんです。実は〝ルクリア〟の花をお育てだと、自慢の温室だと、侯爵閣下から伺って、とても楽しみにしておりました」
フラワーアレンジメント自体には、さほど興味のないキャロルだが、幼少の頃から、店番をしていた関係上、花自体には、かなり詳しい。
エールデ大陸では、現時点で桜の存在は確認されていない。
ただ〝ルクリア〟は鉢植えサイズながら、たくさんの小さな花がピンクの半球状に咲き誇る姿が、盆栽用の〝一才桜〟に似ていると、冬になると
今はもう〝レウコユム〟がキャロルにとっての大切な花だが、桜を思わせる〝ルクリア〟も、決して嫌いではない。
「まあ……〝ルクリア〟をご存知でいらっしゃいますか。確か原産地は、カーヴィアル帝国の山岳地帯と聞いておりますが……そう言えば
屋敷の中を先だって歩きながら、ジーンはサラリと、世間話以上の事を口にした。
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