3-16 逆らってはいけない
「
「室長……」
「ごめん、そこは職権濫用で。その代わり
「なっ……にを言ってるんですか⁉︎」
「あれ? 余計なお世話? あ、もしかして重度のシスコンとか⁉︎」
「真面目に尊敬しかけていた気分を、台無しにしないで下さい! 大体、今のが職権濫用だとか思ってませんからっ!」
刀傷は、怪我の原因としても上位に入る。
最初の実験台が、近未来の皇妃で良いのかと言う部分を除けば、薬の研究は権力の濫用には当てはまらない筈だ。
「その典薬部と言う部署が、作る側であって、研究する場ではないのなら、今のまま、この書庫に場所を与えて頂く方が本望です。翻訳は、研究をさせて頂く対価として、きちんとお引き受け受けしますので」
「そう?」
ユーベル青年には、研究者気質があると、思ってはいたが、やはりなかなかに、こじれた一家言を持っているようだった。
「じゃあ、解毒剤の方から早速宜しくね。編纂の方は、フリード文官中心に、取りかかって貰うつもりだから、ゆくゆくは、2人で相談しながら進めてくれれば、良いし」
通常業務の方は、貴族諸氏と接する事もままあるため、そちらは貴族文官達にメ
インにやって貰う方が良いと思ったのだ。
もちろん近い将来、そんな区分けをせずにすむようになれば、理想的なのだが。
「フリードに……」
「彼、案外自分の意見をちゃんと口に出来るでしょ。そもそも外政室は今、結構、風
通し良いよ? だいぶ
と言うか、仕事をしない貴族が5人、いようがいまいが、違いは部屋が広くなって、無駄なお家自慢もなく、静かになった事くらいの筈だ。
キャロルはあっけらかんと、笑った。
「キャロル様、そろそろ〝迎賓館〟に戻ってお着替えになられませんと……」
こっそり耳元で囁くイオに、キャロルの表情が、僅かに歪む。
「あー……お茶会……」
「まさか、その格好とは、仰いませんね?」
「…………」
ひやりと、書庫の空気が冷えたように、ユーベルには感じられた。
「あー……ちょっとまだ、体調が……ドレスとかは……」
「往生際が悪いですね。まあ、どうしてもと仰るなら、構いませんが。寝かせて貰えないわ、足腰が立たないわで、着替えるのが
「――っ!」
ソファに突っ伏してしまったキャロルに、ユーベルはうっかり口笛を吹いてしまい、目線でイオに
しまった。つい、からかうような仕種をとってしまったが、相手は皇帝と、次期皇妃だった……と、今更ながらにユーベルは思い出したのだが、イオはとりあえず、今回は不問に伏す事にしたようだった。
「メイフェス侍女長様が、お手伝いに来て下さるそうですよ。亡きセレナ皇妃のドレスは、まだあるそうですから」
「……それ、選択の余地ないじゃん……」
弱々しく呟いたキャロルは、両の太腿の内側を、何度か厳しめに叩くと、膝に手を置いて、かなりの気合いを入れたように、立ち上がった。
……が、やっぱりよろけていて、イオの手を借りざるを得ないあたり、いったい、
「
表情で、ユーベルの言いたい事を察したらしいイオが、冷ややかに答える。
「今後、書庫付近で居眠っていたり、足腰立たずに座り込んでいる室長を見かけても、またか……で、
「⁉︎」
「……イオ……トゲありまくり……仮にも陛下……」
「言いましたよね。結婚前から、
「…………」
キャロルは、ぐぅの音も出ず、黙り込んでいるが、エーレの独占欲とは異なる、イオの保護者欲にも、拍車がかかっているような気が、最近はしている。
「…………」
ユーベルは初めて――『目が笑っていない笑顔』に遭遇し、思わず
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