3-5 真実は語られず
「……だから公爵は、あくまで
「デューイ様、ですが……」
「分かっている、ロータス。今にして思えば、ローレンス夫妻が私に、家を出たカレルの行き先や近況を一切告げなかったのも、その遺言があったからだろう。そしてキャロルを、よりによって皇妃にするなどとは、遺言に反する事この上ないとも、
思わず涙も引っこむような恥ずかしい事を、真顔でデューイは口にしている。
「キャロル。仮にこの話が『真実』だったとしたら、
「私は……っ!」
キャロルは思わず、音を立てて立ち上がっていた。
デューイは軽く片手を上げて、それを制する。
「ああ、いい、分かった。
「お父様……」
日記の内容と経緯は分かったが、そもそも、他の5人の大臣は、その話に納得したのか。
そんな内心も表情に表れていたのか、デューイは、再度腰を下ろしたキャロルが、口を開く前に、言葉を続けた。
「5人には、ナタリー妃の血を引く娘が生まれた事を隠し通す為に、侍女からの相談を受けたレアール前侯爵夫人が、自らの使用人であり、子供のいなかったローレンス夫妻に、実子として迎えるよう声をかけた――と、説明していたな。そんな殊勝な
「……何か、ナタリー妃の血筋を示すような身体的特徴が?」
キャロルがデューイ似、弟・デュシェルがカレル似である事は、10人中10人が、指摘しうるくらいに、歴然としている。
デューイは頷いて、己の目を指差した。
「ナタリー妃の生家であるスフェノス家は、代々、深いオリーブグリーンの中に、角度によっては、炎のような閃光が見える〝
あ……と、キャロルとロータスが、ほぼ同時に声をあげる。
カレルもデュシェルも――同じ瞳の色を、持っている。
「もはや、誰も、何も言えんと言う訳だ。事が
「……陛下……は」
「公爵がカレルを正式に自分の娘としたい旨奏上する事は、予め聞かされていたにせよ、日記の内容自体はその場で初めて知ったんだろう――絶句していた」
思わず「エーレ……」と呟いたキャロルには、愕然と立ち竦む、当代皇帝の姿が見えるようだった。
「謁見が終わって、私以外の5人の大臣が会場を後にしたタイミングで、陛下は公爵に聞いた。――『自分のこの血筋は、
いても仕方がないと考えたんだろうな」
「それは……はい。恐らく
前後の皇帝の個性が強く、一見すると、凡庸と評されがちだったオルガノだが、実際は、とても思慮深く、皇帝の責務を充分に理解していた皇帝だった。
ミュールディヒ家の台頭は、倒れさえしなければ、もう少し押さえられていただろう。
エイダルはもしかすると、オルガノに余計な気苦労を負わせたのは自分だと思っていたのかも知れなかった。
「負の遺産だな……全く」
エイダルを憎み抜いた、アズワン帝の負の遺産だ。
「お父様……公爵は、陛下の問いかけに、何と?」
何気なく問いかけた、キャロルに――初めて、デューイの表情が和らいだ。
むしろ、何とも言えない表情……と言った方が良かったかも知れない。
「……〝そう言う
「……っ⁉」
もちろん、赤面したのはエーレだけではなく――
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