第35話 魔王の死

四天王が魔王城に戻ると、魔王は全ての力を卵に注ぎ込み死にかけていた。


「よくぞ戻ったな、して首尾はどうだ?」


トールが代表して答えた。


「それが、可笑しな事に全ての者がミイラのようになっておりました」


「そうか、知らなかったのだな、それは魔力が枯渇しているだけじゃ、直ぐに周りの魔力を吸い集め復活する、時間の問題じゃ...捨ておけ...あと、今までの忠義は余は死んでも忘れん、最後にこの魔神の卵をお前たちに託す..余の全てを注ぎ込んだ...あと2週間もすれば魔神様が生まれる...それまで何としても守ってくれ...」


「「「「はっ命に代えて」」」」


それを聞くと魔王ベルクは安らかに死んだ。


まるで魔族の勝利を確信したがごとく...


閑話:気質の差

トシは王宮に帰り、そのまま引き籠っていた。


その様子を周りの人間が冷ややかに見ている。


確かに腕1本失ったのは辛いと思う、だがこうも我儘されると示しがつかない。


部屋に引きこもり、食事を要請し何もしない、これでは異世界召喚者の威厳が保てなくなる。


そう考えた、国王エルド6世はトシを呼び出した。


「聖騎士トシよ、もう傷は癒えたと聞くそろそろ活動をしてくれぬか?」


「王様..」


「言いたいことがあるのなら申してみよ!」


「俺は戦うのが怖くなった、もう戦いたくない」


「それでどうするというのだ? 一から勉強して文官でも目指すか? それとも冒険者になるか? 手に職をつけて仕事でもするか? 応援するぞ」


くしくもそれはセレスに言った条件と同じだった。


「俺は、何もしたくない...」


ただの学生だった人間が腕を片方失う、これが普通の感情だ。


前の世界なら両親が養ってくれる。


だが、ここは異世界だ。


「そうか、なら金貨4枚を渡そう、平民なら1年間遊んで暮らせる金額だ、どこへでも好きなところに行くがよい!」



「王様、俺を、俺を捨てるのか?」


「捨てるなら国外追放する、国としては一流の剣士にまで育て上げた、片腕であっても一流の冒険者や兵士にまでなれる力はある、それ程の人材を手放し、お金までやる..かなり譲歩しているつもりだ」


「俺は..」


「国外追放じゃない、城下町で暮らすのも良い、1年間遊んで暮らせる金を渡した、期間を掛けて遊びながら将来自分がどうしたいか考えるのが良いんじゃないか?」



「解りました」



トシはお金を貰うと出て行った。



「お父様、聖騎士トシの監視はされないのですか?」


「捨ておけ、そんな価値などない」


「ですが、セレスにはしっかりと監視の目を光らせておいでですよね?」


「あの者とは気質が違っておる」


「気質ですか?」


「まぁこれは経験を積まねば解らぬよ、そうだ、セレスの監視の報告書を見せてやろう」


マリンは報告書に目を通した。


「異世人なら普通にできる、だがあのステータスだそれを踏まえてどう思う?」


「あれ程才能やステータスの低い者が銅級冒険者ですか? やはり特殊な才能があったのでしょうか?」


「それは違うぞ、低級冒険者と一緒に薬草採取からはじまってゴブリンの討伐その受けた依頼から考えると努力したに違いない」


「そうなのですか?」


「銅級冒険者は一流ではないが一人前だ、そこまで自分の力だけで這い上がった」


「随分と気に入られたものですね」


「余は運命を自分で切り開く者が好きじゃ、そういう者はどんなに能力が無くともいつかは大きく育つ」


「お父様がそこまで評価しているなら、そうですね私もセレス殿、そう呼ぶようにしましょう? たしかにかの者が城を出ていく時ににここまでなるとは思いませんでしたわ! 」


「それでも、恐らくこれが限界じゃろうな、王である余と会うこともなかろうよ!だが運命を自分で切り開いたそれには素直に称賛じゃ」


「私も称賛しましょう」


報告がまだ入ってないから二人は知らない。


聖騎士トシですら敵わなかった魔物を倒したのがセレスだった事を...


セレスは信じられない速度で強くなっている...その事を



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