第21話 ソフィの葛藤
私は最近、気になる冒険者がいる。
その人の名前はセレスさんといい、黒髪、黒目の美形の男の子だ。
黒髪、黒目と言えば、勇者様や過去の偉人に多い容姿で、美形の象徴だ。
本物の勇者やその仲間は大体が王族や貴族と結婚してしまい市民には高嶺の花だ。
最初、セレスさんを見た時に私は一瞬目の前に勇者様が現れたと思い目を奪われた。
多分、冒険者の中でも女性はかなり関心を引いたと思う。
だけど、登録の内容を見たら...驚く程弱かった。
うん、これじゃ勇者様やその仲間じゃない。
という事は、私でも手が届くかも知れない。
最初の依頼を受けに来た時、彼はソロだった。
このレベルで、ソロじゃ危ないなんてものじゃない...どうにかしないと。
かといって、ベテランに頼むと断られる...訳ない、黒髪、黒目だそのままパーティーに組み込まれてマスコットにされるかも知れない...どうしよう。
そう考えた私は新人の中で無難に、薬草採取をこなしているルルとメメのパーティに彼を紹介した。
最初彼女達は断ろうとしたが、彼を見た途端に引き受けた...うん、解る、私も冒険者だったらそうする。
それから、彼は物凄く楽しそうに彼女達と仕事をしていた。
《いいなぁ 羨ましい..あの会話に私も入りたいな...》
何度思ったか解らない...だけど、ある日突然悲劇が訪れた。
彼のパーティーがゴブリンに襲われたのだ。
しかも、事もあろうに、彼女達を逃がす為に彼が一人残って戦ったそうだ...戻ってきた彼女達の顔が青ざめていて泣き顔なのは解かった。
だが、私は彼女達に優しく等出来そうにない...
冒険者の命は自己責任...当たり前だけど、彼をおいて逃げて来た事。
事前に情報取集しなかった事...これは彼女達が招いた事だ。
彼女達は有り金をはたいて救出しようとしたが...そんなお金じゃ緊急依頼なんて受ける訳ないんだよ。
私なら出せる...だけど、ギルドの受付がそんなお金を出したら公平性が失われる。
実際に同じ状況に陥った冒険者をお金が出せないからという理由で切り捨ててきた私が好みの男性ってだけでだす訳には行かない。
婚約者でも彼氏、家族でも無いのに助ける訳にはいかないのだ。
なかなか、結論に至らない..じれったい。
結局、彼女達が再度現地に行く...その護衛の依頼という形で出してきた。
うん、そのお金じゃそれしか出来ない。
だけど、セレスさんの黒髪、黒目の美形がここで発揮された。
この金額じゃ普通は受け手がなかなか出ない。
だけど、セレスさんを少なからず思っていた女冒険者が何人もいた。
その結果...銀級冒険者のミラさんがこんな破格の金額で受けてくれた。
だけど...多分、間に合わないと思う。
駆け込んで来て直ぐに対応できたとしても絶対に間に合わないだろう...
結果、現地にはおびただしい血と4匹のゴブリンの死体があったとの報告。
彼はもう...ゴブリンの巣穴に運び込まれたのだろう。
もう、食料になっているだろう。
私の目は曇っていたのだと思う。
こんな情報収集も出来ないものに彼を預けてしまった。
そう思うと、自分の見る目の無さに...怒りが込み上げてきた。
そして、彼女達はもう駄目だろう...完全に目が死んでいる。
上にあがって行く冒険者は絶望に打ちひしがれた時に解る。
こういう目にあった後、気持ちを切り替える事が出来る者、立ち上がれる者が本当の意味の冒険者になる事が出来る。
彼女達はゴブリンの怖さ知った。
もし、このまま続けていても無駄だろう。
だけど、冒険者ギルド側から「辞めろ」とはルール上言えない。
だけど、同じような事が起きないように「キツイ注意」が必要だ。
それとは別に 期待を裏切ったこいつ等の顔は見たくない...
多分、いつか八つ当たりしかねない...距離を置く事にしよう...
だけど、セレスさんは凄い事に帰ってきた。
顔を見ると凄い事に、恐怖が何処にも見当たらない。
なんだか、僅か一日なのに一皮むけた気がする。
今迄が線が細い少年だとすると、いきなり何か掴んだような顔をしていた。
この顔をした冒険者は必ずといって良い程伸びる。
あの顔をした冒険者が鉄級、銅級と瞬く間に登っていき銀級まで上り詰めたのを見た。
その反面、危ない依頼に挑戦して死んでいくのもあの顔をした時だ。
そんな大変な時期なのに...ルルとメメから冒険者を辞める話を聞かされた。
何もこんな時に...そう思ったが...手続きをされた以上仕方ない。
もう私には関係のない人間だ。
だが、これで完全に彼のストッパーが外れる。
彼女達二人と居る彼は最初に会った時と違い楽しそうだった。
多分、彼も私と同じで孤独な人間なんだろう...
そして、それを奪ったもの...ゴブリンに殺意を向けていかないだろうか?
心配だった。
そして案の序...彼はゴブリンの復讐に手を出した。
次の日に、「ゴブリンの依頼書」を剥がして持ってきた目は明らかに復讐者の目をしていた。
私は後悔している。
最初にルルとメメを紹介しなければ...彼は今でも薬草採取をしていたのかも知れない。
紹介したのがベテランなら、楽しく今でも過ごしていたのかも知れない。
すべて、私の失態だ。
私に出来る事は...もう彼が死んでしまわないように祈る事しか出来ない。
そして、彼に出来るだけの笑顔を...それしか出来ない
冒険者の命は自己責任...その組織の一員なのだから...
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