瑠璃色の憂鬱

鈴宮縁

瑠璃色の憂鬱

 未だに、桜に助けてもらったことが気に食わない。

 二ヶ月前、よくわからない長髪で変な格好をしたデカい男に人質にされ、茨の檻に入れられたかと思えば、よくわからないピンクの髪のロリータファッションの女の子が助けに来た。炎で茨を焼き尽くすと、男を取り逃したと悔しそうにしながらあたしを燃え盛る茨の檻から助けてくれた。その女の子は、「瑠璃ちゃん!」とあたしの名前を呼んだ。

「おどろかせてごめんね、私だよ! 桜!」

 そう言われたときに感じた屈辱感、羞恥心は今でも忘れない。

 昔からあたしは助ける側で、桜は助けられる側だった。

 それが急に逆転するなんて。別に嫌だったわけじゃない。でも、もうあたしの助けはいらないと言われたような気がした。いつまでも桜を助けてやるのはあたしの役目だと思っていた傲慢さを自覚してしまった。

「魔法少女になって、みんなを助けてるの」

 そう桜は言っていた。生意気にも桜がちょっとかっこよく見えた。だから、あたしは強くならなきゃ。せめて、桜の横で一緒に戦えたら、そう思っていた。


「るりちゃん! たすけて!」

 犬……。いや、猫かもしれない。とにかく謎の生き物が話しかけてきた。毎日のように桜に助けてもらったことを思い出してはイラつく日々を送っている私が、ベッドに入り、さあ寝ようと目を閉じた瞬間だった。

「なによ……夢……?」

「ちがうよー! ぼくはさくらちゃんのあいぼうのぽち!」

「桜の?」

 桜の相棒、というところは気に食わないけれど、ともかく話を聞いてみる。

「さくらちゃんがあくのそしきにつかまっちゃったの! るりちゃんにも魔法少女の素質はあるから、魔法少女になってたすけてほしいんだ!」

 桜が、捕まった。

「どうやったらなれるのかさっさと教えて」

それならあたしの選択肢は一つだけだった。


「桜!」

 青い髪になって、着たことのないロリータファッションに身を包んで。借りを返して、対等になるために。ボロボロの状態で茨の檻に入った桜を見つける。こちらを見て目を見開いている。

 立ちはだかったのはあのときの男だった。ゆったりとした口調でネチネチと嫌味を言いながら茨で攻撃してくるのを、とにかく避ける。ポチに教えてもらった魔法を試しに使ってみる。氷の魔法で、奴の足を、茨を凍らせて動きを止めてみる。ごっそりと体力を持っていかれた気がしたけれど、相手に隙は作ることができた。ムカつく奴が慌てふためく姿は悪くなかった。私のことも桜のことも危険な目に遭わせて、のうのうと生きているのは許せなかった。さっさとつららを作って、それを放って胸を貫く。事切れたことを確認して、桜の元へと急いだ。

 あたしが来るなんて思ってもないだろう。ポカンとした表情の桜がそこにはいた。

「おどろかせてごめんね、あたしだよ! 瑠璃!」

 あのときの桜の口調を真似して見せれば、桜は嬉しそうに瞳を潤ませた。

「瑠璃ちゃん、助けてくれてありがと」

 その顔を見て、ほんの少し満足した。昔からよく見た、あたしのよく知る気の抜けた表情だった。

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瑠璃色の憂鬱 鈴宮縁 @suzumiya__yukari

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