第2話  ②

夜には会食も控えているし、一旦帰るか。

 

滅多と乗らない地下鉄で人に揉みくちゃにされながら帰ることにした。

誰だか分からない人肌の温かささえなんだかありがたく感じてしまう。

都会の地下で俺は一人取り残された様な薄気味悪さを感じて震えた。


 何だか気分が悪い


家に帰ると必ず出迎えてくれる人がいる。

その人は父よりも母よりも俺を理解してくれる人だ。

「じいや、ただいま」

「巴瑞季様、今日は随分と早いのですね」

「あぁ、聞いてくれ。いきなり後輩にキレられたんだ。意味分からないよな。本当に女って難しいよ」

「それは災難でございましたね。この後の予定ですが六時から巫製薬の天様(アマタ)との食事が控えておりますのでお忘れなく」

「りょーかい」

リビングのソファにどっしりと座り俺は愚痴を言い始めた。

「だいたいさ、ユキだってそうだよ、俺の事なんか何にも考えてくれてない」

「それは巴瑞季様も同じなのではないでしょうか」  

「どういうことだよ?」

「自分ばかりが不幸だと思わぬことですよ。おっともうこんな時間ですな。」

時計はきっかり90度、午後三時をさしていた。

「じいやは買い物に行ってきますが何か欲しい物はありますか?」

「いや特には」

素っ気ない返事だけ返して俺はテレビのリモコンに手を伸ばした。

7、6、4、7、8、5、7、4

観たくもない番組が永遠に流れ続ける。

チャンネルを行ったり来たりしながら俺は悶々とした時間を過ごしていた。

何だろうこのやりきれない気持ちは……

さっきまで晴れていた空はいつの間にか黒い雲に覆われて今にも泣き出しそうであった。

雨、降りそうだな

そんな時であった、雷でも落ちたかのようにスマホが激しく鳴り始めたのは。

ユキっ……!

俺は何も考えずに着信のボタンを押していた。

「あっ……ハズキ」

「どうした?」

「あのね、この前はごめん」

「なんだそんな事……全然気にしてないよ」 

「そっか、なら良かったよ。でね今日なんだけどさ夜、空いてない?」

「えっ?」

「一緒に家(うち)で飲まないかなって」

なんだかユキの声がとても元気であった。

それ自体は嬉しいことなのだが同時に少し不気味でもあった。

「今日……」

六時から予定があることは把握している。ユキには明日にして欲しいと頼めば良いだけの話なのかもしれない。

何でかわからない、でも今日会いたい。ほっとけないんだ。

「わかったよ、じゃあ一時間後に行ってもいいよな」

「うんっ!待ってる」

それだけ言うと彼女は電話を切った。

彼女が益々、分からない。もう十年以上の付き合い、そう幼馴染みなのに。

なんであんなに楽しそうなんだ?

宇佐美さんが少し気の毒だ。あんまり薄情なんじゃないか。

とにかく話せば彼女の思いも解るかもしれない。


俺は巫製薬との商談もすっぽかし、酒とつまみの材料を仕入れた後に車に乗って彼女の家に向かった。

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