第2話 幼馴染み ①

幼馴染みとしてユキのことが心配で仕方ない。

彼女の家を訪れたあの日からもう四日が経とうとしていた。 

「それでさ結局、菖蒲ちゃん、椿樹君とくっついたんだって」

彼女のことばかり考えて何も手につかない毎日を送っている。

そろそろ限界だ。もう一度会いに行ってみようか?

「あー私にもあんなカッコいい彼氏できないかな」

だがその行動が、これ以上彼女の傷を抉るようなことになれば、俺は……


「ねぇ!巴瑞季(はずき)先輩!さっきから全然 ハルの話聞いてないじゃん!」

「あっ、ごめん、ハル。少し考えごとしてた」

「先輩からご飯誘った癖になんか楽しくなさそうだね」

「違うんだ、実はハルに相談したいことがあってさ、それについて考えてたんだよ」

「なに?」

素っ気なく彼女が問い返す。   

「数日前にさ、幼馴染みの彼氏が亡くなったんだ」

「俺、その娘にどう声をかけたらいいのか分からなくて」

この質問はやはりハルにするのが一番だろう。

女心は難しい。到底、俺には理解できたものではないのだ。

ハルの回答から少しでもユキの心の傷を癒やすヒントを得る事ができるかもしれない。

「彼女を傷つけるのが怖いんだ。でもほっとけない」

「なんでそんなこと私に聞くの?」

何だかさっきからハルの表情が険しい。何か機嫌を損ねるような事を言ってしまったか。

「いや、だってさ女の子どうしでしか分からない事とかあるでしょ。だからハルに……」

「そんな事で……誘ったんだ」

俺の言葉を遮る様に彼女は席を立ち上がった。

「ねぇ、先輩。先輩にとって私ってなんなんですか?」

「いや……急にどうしたんだよ」

「良いから答えて!」

彼女の鬼気迫る表情にたじろいでしまってハッキリと言うことができなかった。

「大切な後輩だよ……」

一瞬、彼女は酷く落胆した表情を見せた。

閑静としたカフェの中では声がよく響く。

「どうせ先輩にとってハルなんて都合の良い女なんでしょ」

「わかるんだから、さっきからその娘の事ばっかり考えてたんでしょ?」

「なんでそんな事言うんだよ……」 

「私と喋ってる間もずっとその娘の事考えてたって言ったよね、それってその娘の事が好きってことだよ!」

「いやおかしいよ、ちょっと落ち着きなって」

「ハルは何もおかしくない、どうかしてるのは先輩の方だよ。私の気持ち何にもわかってない」

「取り敢えず座って……」

「もういい、冷めたから」

きっぱりと言うと彼女は食事代の半分を置いて店を出ていった。

だか俺には追いかける気力は一切湧かなかった。

今ハルを追いかけたところで彼女にかけるべき言葉が見つからない。


「何でこうなるんだよ……」

益々、気苦労が増えるばかりだ。

周囲の目があまりにも痛かったので俺は飲みかけの珈琲を放ったらかしにして店を出た。

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