第59話「聖天祭優勝」

 いち早く天馬の元へ駆けつけた龍一が飛びつくように天馬の肩に腕を回した。


「やりやがったな星ヶ谷っ――うぉっ!?」

「ちょっ、ぐはっ!」


 飛びついた勢いのあまり天馬と龍一は二人して地面に倒れ込んだ。


「うははは! そういや俺もボロボロだったわ」

「……ったくお前は」


 少し遅れて麗花に紗月、理帆が到着する。


「大丈夫、天馬君!?」

「あぁ、問題ない」


 理帆から差し伸べられた手を握って天馬が起き上がる。


「全くお前は……それにしてもよくやってくれたな、星ヶ谷」

「はははっ、すんません」


 龍一に手を貸しつつ紗月は天馬に声を掛けた。


「お見事でしたわ、星ヶ谷天馬……本当に、本当に感謝致しますわ」


 聖天祭優勝を悲願にしている麗花がこの中で最もこの勝利に喜びを感じているのは言うまでも無い。


「お礼を言うのはこっちですよ。迅堂会長が俺の代表入りを認めてくれなかったら、この舞台に立つことすらできなかったんですから。ありがとうございました」


 天馬が差し出した手を麗花はうっすら涙を浮かべながら握り返した。

 蒼天学園のメンバーが優勝の喜びを分かち合っていると、閃菜に肩を借りた隼人がやって来る。


「完敗だよ、星ヶ谷天馬。僕もまだまだ足りなかったってことだね」

「どっちに転んでもおかしくない紙一重の勝負だっただろ」


 天馬が差し出した手を隼人は残された力を振り絞って力強く掴み取った。


「僕は一足先にプロの世界に行くよ、そこで多くの経験を積んでもっともっと強くなってみせる。次こそは君を完膚なきまでに打ち倒せるようにね……いずれは君も来るんだろう、プロの世界に?」

「あぁ、先に行って待ってろ、すぐに追いついてみせるさ」

「あはははっ、君が言うと嫌みに聞こえないから質が悪い。あぁそうだ、言い忘れてたよ、優勝おめでとう蒼天学園」

「ありがとう。まぁ、まだ全国大会が残ってるけどな」

「何を言ってるんだ、君たちは僕たち聖帝学園に勝ったんだよ? 今の君たちを倒せるような学校が日本にあるとは思えないね」


 二人の会話が一段落したところで隼人に肩を貸していた閃菜が麗花に声を掛ける。


「あなたはプロの世界に進むのかしら?」

「いいえ、わたくしはプロになるつもりはありませんわ」

「……そう、それは少し残念ね」


 麗花の答えに閃菜は肩を落としたように俯いた。


「ですが、ADFを辞めるつもりはありませんわ。例えプロにならなくともADFに終わりはない。またいつでも、再戦お待ちしていますわよ」

「ふふっ、ありがとう。楽しみにしているわ」


 閃菜は笑みを返した後、隼人を連れて試合場を後にしていった。


 表彰式を行うアナウンスが会場に流れると、大会スタッフがせわしなく会場に集まって来る。蒼天学園メンバーも準備が終わるのを待つために控え室に移動を始めた。


「須王の言葉を借りるわけじゃねぇけど、今の俺たちが負けるなんて想像もできないよな」

「紗月の怪我の心配はありますが、幸い全国大会までは時間がありますわ」

「はい! 絶対に治して見せます!」

「無理しなくても俺と会長で二勝は確実ですよ」

「言うじゃねぇか星ヶ谷。全国にはまだ何人も黄金世代が残ってるんだぞ? それこそ須王みたいに十年前の雪辱をって奴もいるかもしれねぇ」

「誰が相手だろうと勝って見せるさ。それに随分とスタートが遅れたからな、ここからは最短最速で駆け上がっていく」


 楽しむように自信に満ちあふれたその天馬の姿は、龍一が知る十年前の天馬と重なって見えたのだった。


「二人にだけ良いとこ見せられちゃあ格好付かないっすね」

「ふっ、そうだな。私たちだけ負けましたじゃ格好悪い。全国でも頼りにしているぞ、龍一」

「うっす!」



 今年の聖天祭全国大会は例年以上の注目を集めていた。話題の中心となっているのは言うまでもなく蒼天学園だ。


 聖天祭六連覇の過去最強と称される聖帝学園を倒して東京都代表となったのだからそれも当然の反応と言える。


 怪我を負っていた麗花は全国大会当日には完治していた。


 最も懸念されていた紗月は完治とまではいかなかったため、全国大会のトーナメント前半はADsを長剣に切り替えて龍一のサポートに徹することになった。


 万全とは言えない蒼天ペアだったが、天馬と隼人の戦いに大きな刺激を受けた龍一の修羅の如き活躍で激戦になりながらも勝利を重ねていく。


 紗月の腕が完治したトーナメント後半では棍棒型ADsに得物を持ち替え、息の合った蒼天ペア本来の連携で他を寄せ付けない圧倒的な強さを証明して見せた。麗花と天馬の二人は想定していた通り危なげなく試合を制していく。


 そして蒼天学園は全戦全勝という圧倒的な内容で聖天祭優勝を成し遂げたのだった。

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