第58話「男子個人戦⑦輝きを手に」
高校生のレベルを遙かに超えたその戦いは瞬く間にネットで拡散され、僅か数分の間にも関わらず世界中で注目される一戦となっていた。
リアルタイムで見られずとも試合の記録はネットに残る。世界のトップ選手ですら高校生のその一戦は無視できないものだった。
――そして少し先の未来、その映像を観た名だたる強豪たちは皆一様にして口を揃えてこう呟いた
「「「来るか、新たな時代のうねりが……」」」
試合場を一望できるVIPルームで一人試合を観戦していた刀神、真道武は、テーブルの上に置かれた二つのグラスの内の一つを手に取った。
「見ているか空吾よ……これだ、これこそが長年儂が求め続けて来たもの」
武はグラスの中身を一気に仰ぐと、静かに立ち上がって試合場を見下ろした。
「決して一つでは意味がない。共に高め合うからこそ、その輝きは強く、大きな輝きへと成長していく」
ADFには力がある。
見る者を楽しませ、見る者に感動を与え、見る者へ勇気を送る。
しかしそれは、決して一人では成立しない。
全てをぶつけられる相手がいるからこそ成立するものなのだ。
まさに今日という日がそれを証明している。爆発するように高ぶった会場の熱量は、武が現役の頃ですら経験がない。
そして武は会場のものとはまた別の熱量を持った者に目を向けた。
「十年間、待っていた甲斐があったな……二人の輝きに負けず劣らず、お主の輝きもまた見事な物よ」
武は最愛の愛弟子を見ながら笑みを浮かべずにはいられなかった。
長年求め続けて来た輝きを持つ者が、二人どころか三人も同時に現れてくれたのだから。
試合が再開されてからは凄まじい応酬の連続だった。
「牙突!」
「斬輝!」
大きな接触エフェクトが発生すると同時に両者は弾き飛ばされるが、天馬は強引に前に飛翔して距離を詰める。
「天空拳、中伝――三日月!」
天馬は空中で隼人の足を払うと同時に上空へと蹴り上げた。
隼人はその技を知っていても尚、速すぎる二連撃を前にパーフェクトカウンターを発動することはできなかった。
しかし空を浮いている隼人に重力という概念は当てはまらない。自分がどんな体勢になろうとも平衡感覚が狂うことなく冷静に対処した。
「――天断!」
上空へ先回りした天馬は振り上げた右足を叩き下ろす。
「
対する隼人は右下段に構えた双剣を全力で振り上げる。
両者の攻撃がぶつかり合うと、天馬の身体が弾き飛ばされた。
すかさず追撃を仕掛けてきた隼人に対して天馬は凄まじい速度で空中を縦横無尽に飛び回って撹乱する。
隼人がほんの僅かに目を離したその瞬間を天馬は見逃さなかった。
「天空拳、初伝――不動練絶!」
隼人は長剣を交差させて防御するも不可解なほどに小さい接触エフェクトが発生した。
通常であれば反発現象によって弾かれることになるのだが、天馬は加速して隼人を地面に向かって押し込んでいく。
隼人は自ら地面の方向へ引くことで接触していた面に僅かな隙間を作り出した。
再度天馬の拳が隼人の長剣に接触すると、隼人の身体が勢いよく回転して入れ替わるように天馬の背後を取る。
パーフェクトカウンターによって攻撃を無力化したことで、無防備となった天馬の背に向けて隼人は双剣を振り下ろした。
その攻撃に対して天馬は超人的な反応速度で空中で強引に身体を回転させながらその勢いを利用して右足を蹴り上げる。
反発現象によってお互いに弾き飛ばされるが、地面に向かって弾かれた天馬の方が不利な状況。その好機を隼人が見逃すはずもなく、地面に叩きつけるように双剣を振り下ろした。
天馬は地面に手を付いて両足を回転させる曲芸のような動きで隼人の双剣を受け流す。
「天空拳、上伝――烈破轟雷!」
「
先ほど凄まじい威力を見せつけた天馬の攻撃に対して隼人はその場で腰を深く屈めて双剣を鞘に収めた。
そして両腕を交差させて双剣の柄を持つと、刀型ADsの十八番とも言える風刃と同じ容量で双剣を抜刀させる。
単体では雷刃には届かなくとも、二振りの長剣を同時に繰り出すことでその威力は雷刃にも匹敵するものとなっていた。
試合場中央で攻撃がぶつかり合うと今度は全くの五分の力で互いに弾き飛ばされる。
一度仕切り直しとなった後、再び一進一退の攻防を繰り広げながら二人は空へと上昇していった。
試合時間残り一分。
ここまで凄まじい応酬を繰り広げていたにも関わらず、お互いに決定打を与えることはできなかった。
そして二人が同時に大型ビジョンに表示される残り時間と体力ゲージを確認すると、示し合わせたかのように天馬は上空に、隼人は地面へと飛翔する。
二人の考えは同じだった。
相手の体力ゲージを削りきってこそ、真の決着となる。
だからこそ二人は正真正銘、最強の一撃を以て相手を打ち倒すと決心した。
上空へと飛翔した天馬は試合場の高度ギリギリで停止する。
「天空拳、奥伝――
天馬はリミッターを解放させて己の中に秘めたエンジェルフォースを惜しげも無く放出する。
最後の一撃で全てが決着するため残りの体力を気にする必要は無い。膨大なエンジェルフォースを天翼と右足に集中すると、全速力で飛翔した。
隼人は地面へと着地すると同時に片方の長剣を鞘へ収め、膝を曲げて力を溜込んでいく。
「
全身全霊の一撃を叩き込む。
隼人の気持ちに応えるように長剣は凄まじい輝きを放ち、眩いほどの輝きに包まれていた天翼は更にその輝きを増大させる。
そして溜込んだ力で地面を蹴り上げて凄まじい速度で飛翔していく。
白と黒、一条の輝きは数秒後に試合場の中心で衝突した。
「――
「――
お互いの最強の技と技がぶつかり合う。
凄まじい規模の接触エフェクトは試合場全体を包み込む。それを目にした者が思わず顔を手で覆ってしまうほどだった。
その衝撃は文字通り東京ADFスタジアム全体を震わせた。
過去の試合を通してもここまでの規模の力と力のぶつかり合いは例がないだろう。
第二試合ではお互いの力が長時間拮抗したことで徐々に規模を増していったが、それが今回の場合は攻撃の威力が強すぎるために最初から最大規模を誇っている。
「「うおおおおおおお!!」」
試合残り時間十秒。
お互いに全てを出し尽くすように力を振り絞る。これが最後の攻撃になるのは誰の目から見ても明白だ。
試合を間近で見ていた蒼天学園メンバーはあらん限りの声を張り上げて応援する。
「ぶちかませ星ヶ谷!!」
「頼んだぞ星ヶ谷!!」
「行きなさい星ヶ谷天馬!!」
「頑張れ! 天馬君!!」
そして遂にその瞬間が訪れた。
天馬の右足が隼人の長剣を突き破って腹部に接触すると、隼人の身体は一直線に地面に向かって吹き飛ばされていく。
地面に接触しても尚、減速することなく隼人は砂煙を巻き上げながら試合場の外壁まで滑るように転がって行った。
やがてその勢いが止まると同時に試合終了のブザーが会場に鳴り響き、天馬は地面に向かってゆっくりと降下する。
天馬が着地して大型ビジョンに目を向けると、そこには『WIN 星ヶ谷天馬』と表示され、『優勝 蒼天学園』と表示が切り替わったのだった。
「……勝った」
既に満身創痍で膝に手を当てて立っているのがやっとの天馬だったが、観客席にいる母と妹に身体を向けて満面の笑みを浮かべながら力強く拳を突き出した。
その勝利のポーズを目にした観客たちが一斉に立ち上がって地鳴りのような歓声を上げる。
「……勝ちやがった」
「……勝ったのか」
「……勝ちましたわね」
「……勝っちゃった」
蒼天学園メンバーは聖帝学園を打ち倒して都大会優勝という現実を前に、未だに信じられないというように呆然と立ち竦んでいた。
その反応も無理はないと思いつつ、楓は背中を押すように優しく声を掛ける。
「お前たちの勝利だ……行ってこい、お前たちにはその権利がある」
楓がそう言葉にすると我を取り戻したかのように代表メンバーが勢いよくベンチを飛び出してい行った。
「「「「はい!!」」」」
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