第56話「男子個人戦⑤激闘」
星ヶ谷天馬、須王隼人の二人はエンジェルフォースを扱う天才だ。
しかしお互いにエンジェルフォースをコントロールするという点では変わりないが、その特徴には大きな差が存在する。
隼人はエンジェルフォースをミリ単位で精確にコントロールすることができる。これは生まれ持っての超感覚を持っているからこそできる芸当だ。
対する天馬はエンジェルフォースを完全に掌握していると言っていい。
天空拳を習得する者ならば大抵はエンジェルフォースの扱いに長けているが、天馬のように完全と言えるまでにエンジェルフォースを掌握できた者は過去にも例がないだろう。
わかりやすくに説明するならば、天馬は内に秘めるエンジェルフォースの力を自らの意思でその出力を調整できるのだ。
そのため天馬の飛翔速度に加速という概念は存在しない。
爆発的な出力で飛翔するため、初速からほぼ百パーセントに近い速度を生み出すことが可能となる。
それを証明するように天馬は圧倒的なスピードで距離を縮めていくと、隼人の間合いに入る前に稲妻のようにジグザグに進路を変えて背後へと回り込む。
「天空拳、初伝――牙突!」
不意を突いて隙が生まれた隼人の背に向かって拳を突き出すのだが、隼人はまるでその動きを予知していたかのように振り返ると同時に長剣を斬り下ろして天馬の腕を弾いた。
僅かに前のめりになった天馬の身体に向かって目にも留まらぬ速さでもう片方の長剣を薙ぎ払う。
「
天馬はその攻撃に対して咄嗟に横へ飛んで回避する。隼人は渾身の一撃が回避されたにも関わらず笑みを浮かべていた。
凄まじい速度で縦横無尽に飛び回る天馬の動きに対して隼人は冷静さを失うことなく、淡々と一手一手を確実に捌いていく。
「天空拳、中伝――飛影!」
これまでと比べものにならない速度で突進する天馬の攻撃を、隼人はパーフェクトカウンターを使って回避すると同時にすれ違いざまに長剣を振るう。しかし僅かにその切っ先が届くことはなく天馬は間合いの外に逃れることに成功した。
天馬の漆黒色の天翼に戸惑いを見せていた観客たちも我を取り戻し、第一試合、第二試合をも越える今日一番の大歓声が沸き起こるのだった。
「あれが本当に私たちと同じ高校生のレベルなのか……」
蒼天学園ベンチから試合を見守っていた紗月は、目の前で繰り広げられる次元の違う戦いに声を失っていた。
「星ヶ谷天馬、紛うことなき天賦の才。あれが人の成せる動きとは到底思えませんわ」
「あいつに常識なんて言葉は通用しないんすよ。誰よりも自由、それが星ヶ谷天馬っていう男なんだ」
紗月や麗花が驚くのも無理はなかった。
天馬の動きはこれまでの常識が通用しない。通常であれば飛翔中に軌道を変えるためには弧を描くように移動する必要がある。
それが天馬の場合、エンジェルフォースの出力を調整して急停止急加速を連続して行うことで、直角に軌道を変えることを可能にしていた。
天馬はまるで稲妻のようにジグザグな軌道を描きながら全方位から隼人を攻め立てていく。
「凄い……このまま勝てちゃうんじゃ」
天馬が攻撃の主導権を握り、隼人が防戦一方となっているような状況を見て理帆が呟いた。
しかし理帆のその考えを楓が否定する。
「そうでもない、二人の体力ゲージを見てみろ」
「――えっ、嘘!?」
大型ビジョンに表示された二人の体力ゲージを理帆が確認すると思わず驚きの声を上げてしまう。なぜなら二人の体力ゲージは全くの五分。互いに残り半分の状態で試合が再開されてからほとんど減少していなかったからだ。
「見かけ上は星ヶ谷が圧倒しているようにも見えるが須王はその全ての攻撃を完璧に防いだ上で、要所要所で致命打になり得るようなカウンターを狙っている。それに対して星ヶ谷は辛うじてそのカウンターを回避している状況だ。相対的に見れば須王が上回っているだろう」
楓の推測通り、劣勢に見える中でも隼人には余裕があった。
「そんなものか星ヶ谷天馬! 僕のイメージしてきた君は、今の君よりずっと強かったぞ!!?」
「心配するな、ようやく身体が温まってきたところだ。ここからギアを上げるぞ、須王隼人!」
余裕を持っていたのはなにも隼人だけではない。天馬もまた隼人の手の内を、そして自分自身の力を探っていたに過ぎなかった。
そして今、己の全力を解き放つ。
天馬はこれまでより更に速さの増した飛翔速度で瞬く間に背後を取って飛び蹴りを繰り出した。
(っ速い!?)
予想を上回る凄まじい速度の天馬の攻撃に対し、隼人は辛うじて防御することに成功するも大きく体勢を崩されてしまう。
「天空拳、中伝――
その隙を見逃すはずもなく隼人の頭上を取った天馬は両の手を握り合わせた拳を思いっきり叩きつけた。
間一髪、長剣を間に割り込ませて自ら後ろに飛翔したことで威力を大きく半減させることに成功するが、均衡を保っていた体力ゲージが減少する。
弾き飛ばされた隼人に追撃を仕掛けるように天馬が飛翔すると、隼人は体勢を立て直して迎撃した。
「
向かってくる天馬に対し隼人は双剣を同時に振り下ろして防御させると、すぐに双剣を逆手に持ち替えて斬り上げる。
(いつの間に!?)
その早業を前に天馬は防御が間に合わず攻撃を受けて体力ゲージを減少させる。
しかし天馬は一切怯むことなく距離を詰めて行く。
再び両者の間合いに入ると、正面からの殴り合い、斬り合いが始まった。
十、二十と手数が増えてもお互いに引くことはなく、激しい接触エフェクトをまき散らしながら凄まじい応酬が繰り広げられる。
「「うおおおおおおお!!!」」
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