親に捨てられたみたいなもの

当時、俺の教官替わりをしていたのは、それこそ軍の<教官仕様>のメイトギアだった。


メイトギアってのは基本的に人間の日常生活のサポートを中心に行うためのものだからってのもあって、当たりの柔らかい女性型のが多いんだが、さすがに軍の教官仕様ともなればイカツいオッサン型だったよ。


しかも<軍用>ってことで一般仕様のに比べると戦闘力も備えてるから、さすがに俺がいかにゴリラ並の筋力を持ってるったって、それこそ『子供扱い』だった。だからこそちょうどよかったんだけどな。


俺自身、まったく手加減をする必要がないってんで、毎日、立ち上がれなくなるまで挑みかかって満足して寝ることができた。正直それまで、力を抑えなきゃいけねえのが鬱憤になってたんだ。


軍に預けられたのも、ある意味じゃ親に捨てられたみたいなものだったが、別に恨んじゃいねえ。むしろ感謝してると言ってもいい。普通の人間に怪我をさせねえようにちまちま気を遣って生きなきゃならねえなんてのは、俺にとっちゃそっちのが地獄だったに違いねえ。


加えて、全力を出せるからこそ<力の使い方>ってのを徹底的に学ぶことができたってのもあって、力加減もかなりできるようになっていったよ。


さらに軍も俺の能力にゃ興味があったらしくて、研究にも協力したら、生活費もすべて出してもらえた。もっとも、俺の力を戦争に活かすとかそういうんじゃねえけどな。そんなことをしなくたって、俺を子供扱いできるような戦闘用ロボットなんざいくらでも簡単に作れたわけで。


単純に、人間が失っちまった<能力>を発揮できる俺の体の仕組みってのを研究したかったんだろう。


それでも、いくら調べたところで単純に、


『先祖返りを起こしてるらしい』


程度のことしか分からなかったらしいけどよ。


あと、俺の何代も前の祖先の親類にゃ、俺と同じようにゴリラ並の筋力を発揮していたのもいたらしい。ただそいつは、火星でいくつもの歴史の教科書に載るレベルの事件を起こしたテロリストだったってんで、代々、触れちゃいけねえ話題ってことになってたんだと。まあ無理もねえ。


俺自身は別に世の中にゃ大して恨みもねえし、テロなんざまったく興味もなかったけどよ。自分の力についても、軍の教官型メイトギア相手に完全に手加減なしに勝負を挑んで、毎日毎日ボロボロになるまでぶちのめされりゃ身の程を知ることもできたし。


それでも、結局そのまま軍に入ることになって、俺自身の希望もあって最もキツいって噂の<空間騎兵隊>に配属されたんだ。


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