物分かりのいい人間じゃねえ
再び水中に落ちた俺は、『泳ぐ』と言うか、『襲いかかってくる奴らに対して攻撃を加える反動を利用』して岸に向かって移動していた。
こいつらは明らかに水中での活動に適した体を持ってやがる。力そのものは俺と大差なさそうだが、こちとら水中戦闘は必ずしも得意じゃない。人間相手なら負ける気がしねぇとしても、敵が得意とするフィールドで戦うのは、ゲームの場合ならともかくマジの生き残りをかけた勝負の場合なら、ただの間抜けだ。
できれば地上、せめてある程度は踏ん張りが効くところでねえと、遠からずスタミナ切れで抵抗しきれなくなって死ぬ。こいつらは間違いなく俺を食うつもりで襲ってきてるしな。
『戦って死ぬ』ってなあ、<人生の終わり>としちゃあ割と悪くねえ。しかも、野生の獣を相手にマジでやりあって負けて死んで食われるってなあ、<生き物の最後>という意味じゃ、最高に正しい死に方だろ。
だが、『力を出し切れずに死ぬ』ってのは、やっぱうまくねえ。
納得できる死に方じゃねえよ。
だから俺は、自分が力を出し切れるフィールドに移るために全力を尽くす。まあ、そういう形ででも全力を出し切ってそれで駄目だったんなら、それはそれで納得もできるってもんだ。
岸を背にし、そちらに向かって泳ぎつつも襲いかかってくる奴らを迎え撃ち、生きるために足掻く。そうだな、今の状態は『戦っている』というよりは『足掻いてる』だけだ。まったく、どこまでも無様でみっともねえ。
でもな、お行儀よく諦めてやれるほど俺あ物分かりのいい人間じゃねえんだよ。
そうやって足掻いた末、足の裏にこれまでと違う感触を得た。泥の奥に難い物がある。かと言って、さっきのような岩じゃねえ。<石>だ。拳程度のから人間の頭くらいの大きさってえ感じのな。
泥がかぶさったり藻のようなものが生えていて滑るが、少なくとも足がつかねえ状態じゃねえ。となりゃ川底を蹴ってさらに岸に近付く。あと五メートルってえところか。すると一気に水深が浅くなり、腰から上が水から出る。
「はっはあ! 俺の勝ちだ!!」
思わずそう口にしちまう。何しろ本当に勝利を確信できたしな。ここまでで凌げてきた相手だ。それがこうやって踏ん張りの効く場所にまで来れたんだ。負ける道理がねえ。
その分、襲ってきてる奴らの体も腹から上が水から出たが、プロポーションは人間に近いってえのに、明らかに人間ってよりはワニかなにかを思わせる、鱗に覆われた、黒っぽい青色の体をした奴らがそこにいたんだよ。
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