本物の野生
しかもその<硬え体>は、まるで刃物みてえな感触も含んでやがった。<拳ダコ>でガッチガチになった俺の拳じゃなけりゃ、ざっくりと切れていたかもしれねえ。
だが、今はそんなことに構っちゃいられねえ。こいつを退けなきゃ間違いなく俺は死ぬ。バラバラに食いちぎられてこいつらの腹の中だ。
そう、襲ってきたのは一匹じゃなかった。他にも同じようなのが少なくとも二匹いる。
「おるああっ!!」
俺は吠えながら今度は蹴り飛ばす。すると反動で俺の体が移動し、足が硬い部分に触れた。川底に沈んだ岩か何かだろう。だからそれを足場にして自身の体をロケットのように水中から空中に向けて撃ち出した。
間合いを取って状況を確認するためだ。
高さは水面から一メートル強、滞空時間はコンマ三秒ほどだったが、そこが川幅三十メートルはくだらない、それなりの大きさの川で、俺に襲い掛かってきた奴らの頭が水面から見えていたのも確認できた。
『なんだこいつら!?』
それが第一印象だった。そうとしか言いようがねえんだ。人間の頭のようにも思えなくなかったが、そこは明らかに髪の毛じゃなく<でかい鱗>みてえのがいくつも重なり合った状態になってやがった。
こんな人間がいたなんてのは、俺は聞いたこともねえ。てか、まるで子供番組に出てくる<怪人>じゃねえか。ヒーローにやられる側の。
それでも、<着ぐるみ>なんかじゃねえことは確かだ。<アトラクション用のロボット>でもねえのは、直感的に分かった。こいつらは確かに生き物だ。ロボットから感じられる違和感がねえ。生きてねえクセに生き物のフリをしてるロボットには独特の違和感があるんだよ。
だが、ロボットじゃねえなら、俺でも勝てる可能性はあるな。
戦闘用のロボットが相手じゃあ、いくらゴリラ並の筋力を持つ俺でも真っ向勝負で勝てる道理はねえ。ねえが、生き物相手なら何とかなるぜ。しかも体格は俺と変わらねえならな。
それが分かりゃ何も心配要らねえな。ましてや相手は確実に俺を殺しに来てやがるしな。本物の肉食獣の殺気だ。人間が放つ<まがい物>じゃねえ。
瞬間、俺は水面に落下しながら、<怪人>の頭を思いっきり蹴り飛ばしてやった。普通の人間が食らえば頭蓋骨粉砕、頚椎破損で死んでもおかしくねえ蹴りだった。
なのに、モロに入ったそれの手応えが、十分なものじゃなかった。確実に相手を殺したってえ印象じゃなかったんだ。だから余計にこいつらが<本物の野生>だってのが伝わってきたってもんだったぜ。
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