第7話 花火遊びの夜に


「夏の終わりに花火したい」という吉瑞きずきさんの一言で、佐和さわ商店のバイト全員、夜の公園に集合した。

「手持ち花火なんて、何年ぶりかしらね」

魚住うおずみさんが目をキラキラさせて、吉瑞さんと花火パックの封を率先して開けている。

私と天我老てんがろう君とで、バケツ二個分の水を用意して。

さかきさんがチャッカマンを片手に笑っている。

みんなが各々花火を手に持つと、榊さんが順に火を点けた。

わっ、と声が上がる。

「これよー花火花火ー」

「こんなに勢いあったかしら」

「榊さん、何本持ってるんですか!?」

「天我老君、危ないから榊さんから離れて」

「すみちゃんは酷くない??」

榊さんが喚いているけど無視。

最初の一パック分はみんなで同じ種類を同じタイミングで遊び、残りはやりたい人がやりたい種類を遊ぶ形に落ち着いた。

夏の終わりとは言え、夜もまだまだじっとりと暑い。吉瑞さんと魚住さん、天我老君がねずみ花火で楽しげに笑っているのを、私は少し離れたところで見ていた。

私たちの周りは、花火の一瞬の明るさ以外は真っ暗闇。花火からの煙の白さだけが、重たく辺りを包んでいる。

背後の闇から、ざわざわとした気配を感じた。

人ではない気配。

後ろを向いてしまいそうになってーー

「すみちゃん!ほれ、」

「榊さん」

横から、手持ち花火を差し出される。

手に取ると、直ぐに火を点けられた。

シュッ、と音がして、火花が迸る。

明るい。色鮮やかに変わる火に、少しだけ和んだ。榊さんも、自分の手に持つ二本に火を点ける。勢い良く、火花が散った。

「ーー明かり持たないで一人になるな。見つけ辛ぇから」

「え?そんな離れてませんよね」

真剣な声音に聞こえたから思わず榊さんを見ると、めちゃくちゃ呆れた顔をされた。

何。そんな変なこと言った??

「後ろに気配感じてないのか?」

榊さんも分かってたのか。

「……」

「そういうことだよ。闇に紛れて人じゃない奴らにちょっかい出されたら、面倒だろう?照らすもんはあった方が良い、し、火は強い。ーー経験上な」

「……そうですね」

私の分の花火が燃え尽きると、榊さんはまだ火のある一本をくれた。

私たちの周りはほのかに明るい。吉瑞さんたちもちゃんと見える。

ざわりと、背後の闇が蠢く気配がした。

直ぐ後ろまで迫っているような気がして、身体が強張る。

「ーーすみちゃん、吉瑞たちのとこ行ってロケット花火手伝ってやれ」

その声でハッとする。

手に持つ花火は、燃え尽きていた。

「榊さん、」

「大丈夫。みんな居る。すみちゃんは花火を楽しんでりゃ良いんだよ」

何本持っていたのか、また新しい花火三本に火を点けていた。ぶん、と勢い良く振り回す。一瞬の強い明るさに照らされた榊さんの笑い顔を見ていたら、何だかそれで良いような気がしてきた。

「何でそんな調子でまともなこと言えるんですか?」

「さらっと失礼だなおい……おじさん繊細だから気をつけて?」

私はそれには応えないで、ロケット花火を準備している吉瑞さんたちの方に向かった。少し笑ってしまったのは、榊さんには内緒だ。




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