第11話 プレゼント
「というわけで第一回、アイリの好きなものは何でしょな会を開催する!!」
「ぱちぱち~」
「なにこれ?」
「ちょっとサトヤ。手を叩いてないで、訳を話しなさいよ、訳を。新人を使って私の貴重な休み時間を削らないでほしいものだわ」
午後三時。お客様たちの昼食時間が終わってから始まる昼休みのこの時間を使って、俺はサトヤに頼んでとある有識者を集めてもらった。
それは、アイリのことを詳しく知っているであろう有識者である!
この集まりは、なにやら繋がりがあるであろうカサゴさんやルルにも来てもらい、俺は今日の議題となるアイリとの仲直り作戦にて最も重要な役割を果たすであろう、プレゼントの中身を何にすればいいかを聞くものである。
ちなみに、なぜか居るミィは俺の後ろをてこてこと付いてきただけである。
「というわけで、どうか俺に知恵を託してください!」
そんな中でも、特に忙しいカサゴさんに頭を下げつつ、俺はこの会議の開催を宣言した。
「女子のことはわからない。どこまで力になることができるか……」
爬虫類のよう――ってか、まんま爬虫類なカサゴの兄貴は、切れ味の鋭い瞳を閉じながらその手のことに詳しくないと俺に謝ってきているが、それでも協力してくれるその姿勢に感謝しかない。
「なるほどねぇ……ますますあんたのことがわからなくなってくるんだけど……ほんとにミィと同衾したの?」
そして、カサゴの兄貴の肩に留まっているルルは、今朝のアイリから聞かされたであろう話を踏まえて、俺に事の経緯を聴いてきた。
「同衾したっていうか……部屋で話してたら一緒に寝落ちしちゃったっていうか」
「あー……なるほどね。にしても、随分と気に入られてたみたいね、あなた」
とにかく、俺は俺の身が潔癖であることを全面に出して、あれは彼女の誤解であったと説明した。とはいえ、思ったよりもすんなりとルルは俺の話を信用してくれた。
まだここに来て二日の男の話を、なぜすんなりと受け止めることができるのかと、彼女に聞いてみれば――
「女の勘よ。あと、信じてほしくないならそういってくれればいいわ」
「い、いえ……少々不安になったもので……」
「うむ、素直でよろしい」
ルルさんはそういうと、話を聞こうとその居住まいを正し、とんと議題の中心となる卓上の上に座り込んだ。
「それじゃあ、話を進めましょう」
「おう、そうだな」
そうして、会議の進行役として務め始めたルルさんの言葉によって、まずは彼女がアイリの好きなものの話から話題は進んでいった――
◇~~~~◇
作戦工程その1。
最初にして最大の関門、どうやってアイリに俺が接近するか、である。
これは想像を絶するほどに俺の精神に壁となって立ちはだかっており、挨拶をすることすらままならないほどの緊張が、冷や汗となって俺の背筋を伝っている。
今現在、あと数分で今日の業務が終わるといったところだ。
あの会議から数日。俺は主からもらったしばらくの活動資金を元手にして、竜宮本館に見下ろされるようにできた城下町さながらの街並みに繰り出しては、その品物を買ってきた。
何度かミィに手を引かれて寄り道する羽目になったが、まあ必要経費だ。
そうして準備したものはロッカーの中に入れてある。あとは、彼女にプレゼントを渡して気をそらしながら、あの日のことを弁明するだけだ。
だが、その行為の結構時刻が近づくにつれ、俺の緊張度合いはどんどんと高まっている。
今か今かと、業務が終わってから話がしたいと切り出すためのタイミングを、俺はひたすらに見計らっていた。
今の業務も、相変わらず掃除である。今はお客がいなくなって空き部屋となった一室を、俺とアイリの二人で掃除しているところであり、ミィは気を利かせてくれたルルさんの配慮によって、彼女と一緒にまた別のところを掃除しているそうだ。
……元をたどれば、ルルさんがミィの教育担当だったのだから、元の場所に戻ったといえば正しいんだが……あの様子だと、また戻ってきそうだ。
そんなわけで、彼女らがおぜん立てをしてくれた手前、このタイミングを逃す手はない。
……ちらり。
最後の仕上げにと畳の掃き掃除をしている俺の後ろで、押し入れにしまわれている布団のシーツを取り換えているアイリの様子を俺は見た。
随分ともくもく作業をしている彼女は、依然俺に対してそっけない態度をとり続けている。
今のところ、業務伝達以外では口すらも聞いてもらえない始末だ。それと、俺がミィに絡まれているときに感じる視線がかなり威圧的になっている。
こんな状況で、果たして俺の話を聞いてくれるものなのだろうか……。はっきり言って不安しかない。
しかし、ここで出なければ男が廃る。少女一人に気おされて、何もできませんでしたと言えば、サトヤ達協力者の皆様方の顔に泥を塗ることになろう。
ええい、ままよ。どんな結果になろうとも、ここで動かにゃ始まらないだろう!
「――ナオさん。今日の仕事が終わった後、少し時間をとれますか?」
「……え?」
なんとびっくり、俺が彼女に話しかけようとした瞬間、カウンターパンチが飛んできた。
「あ、っと……いや、問題はない、ぞ?」
「そうですか。それじゃあ、本館の裏庭の方で待っていますね」
どこかよそよそしい態度の彼女は、そう告げるとさっさと替えのシーツをもって部屋から退場していってしまった。
何が起きたのかと混乱する俺は、業務の終わりの時刻が来るまで、ぽつんとその部屋で一人立ち呆けていることとなる――。
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