第72話 リセマラ勇者

 ドラゴン戦の翌日、『ヨイヨイ』の冒険者ギルドにて。


 受付にいるニーナさんへクエスト完了の報告を行う。報酬の1つである経験値を貰うとまた1つレベルが上がった。

 これでレベルは18になった。


 その他の報酬であるお金や本棚石、ドラゴンから貰ってきたドロップアイテム袋は、約束通りアグライアさんたちに渡した。


「それでは約束通り頂くとするよ。ありがとう、シンヤ君」


 アグライアさんが頭を下げ、お礼を言う。


「いやいやいや、お礼を言うのはこっちですよ。ドラゴンに回復スキルを使われてすごくギリギリだったし。アグライアさんの協力が無ければ惨敗でしたよ」


「ん? 初回のドラゴンは回復スキルを使わないはずだが、おかしいな」


「そうなんですか? 〈森林龍浴〉とか言って回復してましたけど」


「〈森林龍浴〉?! そのスキルはドラゴンが一度負けた相手にしか使わないはずなんだが。HPを50%回復するらしいぞ」


「え、アイツ、そんなスキルを使ってたんですか。ズルじゃん」


「うむ。ズルにはズルという事か。ドラゴンと神界の仕事人の戦いは凄まじいな」


 アグライアさんもポロッとズルと言っている。やはりこの作戦はズルだと思われていたようだ。

 しかし、HPを50%も回復されていたとすると俺たちだけでもHPを7〜8割は削ったという事になる。それでドラゴンは俺たちを認めてくれたという事なのだろうか。あの状況でしっかりと門番の役目を果たしてたとは恐れ入る。



 ◇



 勇者になるための条件の1つドラゴンスレイヤーの称号は取得した。

 もう1つの条件は【魅力】が400以上。レベルが18になった今なら超えているはず。


〈ステータス〉を確認してみる。


冒険者シンヤ

【レベル】18

【HP】237

【SP】205

【物理攻撃力】219

【物理防御力】185

【魔法攻撃力】202

【魔法防御力】168

【魅力】463☆

【幸運】190

【スキル】才器の光彩(発動中)、烈風斬

【称号】ドラゴンスレイヤー緑龍、ポメポメ山5合目の覇者


 勇者の条件である称号〈ドラゴンスレイヤー〉の獲得、【魅力】400以上を達成した。


「ルージュちゃん、パパレ。やったよ。勇者になる条件を達成したよ」


「おめでとう、シンヤ君」


「やったね、お兄ちゃん」


「2人のおかげだよ、ありがとう。と言うか、ルージュちゃんも勇者になれるんじゃない? 一緒になっておく? ガイド本によると所得倍増らしいし」


「えっえっえっ、私は勇者になるのは遠慮しとくよ。なれるなら違う上級職がいいかな」


「そっか。じゃあ俺だけ一足先に上級職にならせてもらうよ。王都へ行ってさっそく勇者になっちゃおうかな」


 ルージュちゃんとパパレ引き連れて俺は浮かれながら王都へ転移した。



 ◇



 王都、東の神殿にて。


「こんにちはー。すみませーん。勇者になりたいんですけどー」


 俺の声を聞き、奥から神官のフランチェスコさんが現れた。


「君か。以前、ガイド本を渡したと思うが」


「はい。勇者になる条件を達成しました」


「なんと! 一から勇者を目指すと数年はかかる事が多いのに随分と早かったの。頑張ったんじゃな」


「ええ、頑張りましたよ」


 そう言って俺は今までの事を思い出していた。悪夢のリセマラマシンから始まり、ルージュちゃんとパパレをパーティーメンバーに加えてのオオトカゲ戦、ゴブリン戦、スライム戦、六角ウサギ戦、岩イノシシ戦、ドラゴン戦。多くの魔物と戦った。

 勇者を目指す俺を支えてくれた女神クレア、ルージュちゃん、パパレ、アグライアさんなど多くの人たち。そして、その支えてくれた人たちに若干、セコいだのズルだのと思われている節はあるが、俺は頑張った。方向性はともかく頑張った。


 神官のフランチェスコさんは神殿の奥へ俺たちを案内する。


「こちらの部屋に来なさい」


 神官のフランチェスコさんは上級職になるための部屋へ俺を招き入れた。

「行ってくるね」ルージュちゃんとパパレにそう伝えて、俺だけが部屋へ入る。

 俺が部屋へ入ると、ギィィという音を発して大きな扉が閉められた。部屋の中は中央に魔法陣が描かれており、魔法陣を取り囲むように上級職を表した石像が立っていた。


 神官のフランチェスコが勇者像の前で何やら言葉を発すると、勇者像が輝きだした。


「魔法陣へ入りなさい」


「はい」


 俺は言われるままに魔法陣へ入る。魔法陣が赤く輝き出し、俺は身体の内部から不思議な力を感じた。


 ピコン!『上級職〈勇者〉になりました』


「おお、きた。俺が勇者になれるとは」


 勇者になるための条件。


〈ドラゴンスレイヤー〉の称号

 レアスキル〈次元の神秘〉があったから。


【魅力】400以上

 レアスキル〈才器の光彩〉があったから。


 そのレアスキルを得たのはリセマラをしたからだ。

 俺はリセマラをして勇者になった。リセマラ勇者だ!


 ‥‥‥そのはずだった。



 ◇



 ここは神界。

 異世界への転生者は、すべからくこの場所へ召喚される。

 神界で転生を司る美しい女神の1柱クレアが転生者へ怒鳴りつける。


「転生者であるシンヤよ!!! なんであなたはまたここにいるの?! 勇者になったんでしょ?!」


「ごめんなさい」


 俺は女神クレアの前で土下座をしていた。

 俺は勇者になった特典で貰った【神界の本棚 利用券】30枚の結果が全てノーマルスキルだった瞬間、発作的に存在削除リセットしていた。






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