第71話 戦いのあと

『グハハハ。お主らに負けるとはな』


「あれ、元気そうですね。死んだんじゃないですか」


『死にはせんよ。ワシは不死身だからな。ワシを殺せるのは神か魔王、もしくは神界から派遣された者だけだ』


「えっ、じゃあ神界の仕事人の俺がもっと攻撃したら死んじゃうの?」


『いや、まて。そういう事になるが、殺さんでくれ。ワシは魔物というよりは神獣だからな。勇者になる資格がある者かを試す門番のような立場だ。ワシも神界から派遣されているんだぞ。神界から派遣されたお主たち神界の仕事人と同じようなものだ』


「へぇ、同業者みたいなもんだったんですね」


『それにしても今回は迂闊に転移スキルを実装した神界のミスだな。あやつらエアプだからな。この件はワシから神界へ報告しておこう。修正案件だ』


「やっぱりエアプだと思いますよね。神様なんでエアプで当たり前と言えば当たり前なんですけど。とにかく倒したから称号とか貰えるんですよね?」


『それはもちろんだ。ワシが敗北を認めた訳だからな』


 そんなドラゴンの言葉に合わせるかのように、音声が聞こえた。


 ピコン!『称号〈ドラゴンスレイヤー緑龍〉を獲得しました』


「おお、きたきた。これで俺もドラゴンスレイヤーか」


「お兄ちゃん! パパレもドラゴンスレイヤーだよっ。カッコいいっっ!」


「えっえっえっ、私なんかがドラゴンスレイヤー?」


「ルージュちゃん、何言ってるの? ルージュちゃんもいなければ勝てなかったんだよ」


「そうだよ、お姉ちゃん。3人揃ってドラゴンスレイヤーだよっ」


「そっか。そうだよね。3人で頑張ったもんね」


「3人どころか色々な人たち、人どころか魔物にも協力してもらっているけれど。そうだ、アグライアさんたちへお礼のドロップアイテムを貰わないと」


『おお、そうだ。アイテムを渡さないとな。ちょっと待っておれ』


 ドラゴンは何やら暗証番号のような呪文を唱え、ダンジョン奥の隠し扉を開いた。

 隠し扉の先をチラッと覗くと、そこは様々なアイテムが収められた倉庫のような部屋があった。ドラゴンはその部屋の中で「緑龍ドロップアイテム」と書かれた袋にせっせとアイテムを詰め始めた。


 俺とルージュちゃんが目を離した隙をついてパパレはアイテム部屋の中に入っていた。


『な、なんだ?! お主は? 勝手に入って来てはいかんぞ』


 ドラゴンが驚く。どう見ても勝手に入ってはいけない雰囲気の部屋なので驚くのは当然だ。


「パパレはパパレだよ。これ下さいっ」


 パパレがカッコいい棍棒を持ってドラゴンにおねだりしている。


『パパレちゃんとやら残念だが、その氷穴の棍棒は今回のクエストの報酬にはないんだよ』


「カッコいいドラゴンさん、お願いしますーっ」


『いや、だが在庫数が合わないと神界への報告が面倒な事に‥‥‥』


「カッコいいドラゴンさん、お願いしますーっ!!!」


 さすがパパレ、押しが強い。全く引く気が感じられない。


『ま、まあ小さいのに頑張っていたからな。仕方ない。くれてやる。でもあまり人に喋ったらダメだぞ』


「やったー、ありがとうございますーっ」


 パパレは強引にドラゴンからご褒美を貰った。


「あ、あいつ。無理やり貰いやがった。よし、俺にも何か下さい。あ、この剣が良いです」


 俺もアイテム部屋に入り、カッコいい剣を手に取った。


『お主もか、それは鎌風の剣、珍しい剣なんだぞ』


「でも俺も頑張ったし。それに、この手にしている剣でドラゴンさんを殺してまで奪いたくはないし」


『お主はやはり酷いヤツだな。まあ良い。お主も頑張っておったから特別にくれてやろう』


「ドラゴンさん、ありがとうございます。ルージュちゃんも何か貰ったらどう?」


『お主は全く。まあそうだな。ルージュちゃんとやら、好きな物を1つ選んで良いぞ。持っていきたまえ』


「えっえっえっ、いいんですか。えっと。それじゃあこれを」


 ルージュちゃんは可愛いらしい首飾りを選んだ。


『それだけはやめておけ。呪いの首飾りだぞ』


「えっえっえっ、呪い?!」


『ルージュちゃんとやら、お主はアレだな。見る目がないのか、運がないのか。首飾りならば、これはどうだ? 龍石の首飾りと言って幸運を呼び寄せるぞ。結構なレアアイテムだ』


 ドラゴンは親切に似たような見た目のネックレスを選んでルージュちゃんに差し出した。ルージュちゃんは呪いのネックレスと引き換えに龍石の首飾りを受け取った。


「ドラゴンさん、ありがとうございます。少しは幸せが来るのかなぁ」


 いつも元気なルージュちゃんだが、【幸運】が低い事を気にしていたのだろうか。


『それらを装備しても〈ステータス〉の数値は変わらんが、良い感じに効果はあるはずだ。大事に使うのだぞ』


「「「はい、ありがとうございます!」」」


 そんなこんなで、アグライアさんへ渡すためのドロップアイテムが詰まった袋とおまけでもらったアイテム。

 経験値も得てレベルも一気に2つアップ、最大の目的である称号〈ドラゴンスレイヤー緑龍〉も手に入れて、ドラゴン討伐クエストは完了した。予想以上の成果だ。

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