第58話 2人きり
俺たちは場所を変えて、お茶をする事にした。近くにあった雰囲気の良いお店に入り、みんなでコベコベ名物の海スライムゼリーを注文した。
パパレのお祝いも兼ねている。
「パパレ、おめでとう。頑張ったな。後で何でも好きなものを買ってやるぞ」
「パパレちゃん、おめでとう。お家に帰ったらパパレちゃんの好きな料理を作ってあげるわね」
パパレのお父さんとお母さんがパパレにお祝いの言葉をかける。
「やったー、パパレはお母さんの作ったゴブカラ食べたい! お父さん、お母さん、ありがとうございますー。あっははー」
パパレは両親に褒められて、とても嬉しそうだ。そんなパパレがお父さんへ質問する。
「ねぇねぇ、お父さん、そのカッコいい牙はなに?」
パパレはずっと大きな牙が気になっていたようだ。俺も気になっていた。
「これか! これはブルーセイウチの牙だよ。北の海で暴れていると聞いて倒してきた。体長10m以上はあるヤツで強かったぞ」
「凄い! パパレも強くなって倒せるようになるかなーっ、パパレたち夏休みの後、『ポメポメ山』にレベル上げに行くんだよ」
「お、『ポメポメ山』に行くのか! オレも若い時はよく『ポメポメ山』に行ったもんだ。ガハハ」
「あらあら、そういえば、お父さんに出会ったのは『ポメポメ山』だったわね。ウフフ」
「オレが1人で山籠りしているところに現れてパーティーを組んだんだったな。それで、そのまま結婚してな。シンヤ君はルージュちゃんとパパレ、どっちと結婚するんだい? 強引にいった方がいいぞ。ガハハ」
「ごふっ、あわわわわわ、け、結婚?」
親子揃って同じ話題をぶつけてくるとは。
「あらあら、シンヤ君、慌てちゃってるじゃない。お父さんの言う事は気にしなくていいわよ。お父さん、それよりも『ポメポメ山』の事を教えてあげたら?」
「おっと、それもそうだな。『ポメポメ山』は色々な魔物がいるが、麓から中腹なら山スライム、六角ウサギ、足長ドングリ辺りがお薦めだ。注意する魔物は雷撃鳥や岩イノシシといったところだな」
その他にも色々と『ポメポメ山』について詳しく教えてもらった。
「家に帰ったら『ポメポメ山』の地図をパパレに持たせるから3人で頑張るんだぞ。ガハハ」
「ガレフさん、ソフィアさん。とても参考になりました。ありがとうございます!」
「シンヤ君、あんまり山に籠ってるとお父さんみたいに『ポメポメ山男』の称号を取っちゃうから程々にね。ウフフ」
「一緒にいたお母さんは『ポメポメ洞窟の魔女』になったがな。ガハハ」
それからしばらくの間、パパレ一家と談笑した。
『ポメポメ山』の情報も得て有意義な午後のひとときとなった。
◇
「パパレはお父さんとお母さんと一緒に馬車で帰るんだね。じゃ、また夏休み明けにね」
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。またねーっ」
パパレは両親と一緒に馬車で帰るという事で別行動になった。
そうして、俺とルージュちゃんは港町に2人きりになった。俺はいま、ルージュちゃんと2人で港の見える公園を歩いている。
休日に2人で公園を歩く、これはデートと言って良いのではないだろうか。
夕日が沈み街灯が灯り、とてもムードのある散策路をルージュちゃんと並んで歩く。
「日が沈んで、潮風が少し冷えてきたね」
俺はルージュちゃんを気遣って声をかける。
「そうだね。でも私、もう少しここにいたいな」
俺たちはそのまま公園内を少し歩いて、港を見下せる丘にあるベンチに2人で腰をかけた。
港や街の明かりがとてもロマンチックだ。
周りのベンチでは恋人同士と思われる男女がチュッチュしている。
周りから見れば俺たちも恋人同士に見えることだろう。ルージュちゃんの温もりを感じるほどに、息遣いが聞こえるほどに、ルージュちゃんは俺のすぐ近く、すぐ隣に座っている。
いつになく良い雰囲気だ。驚くほど自然にお膳立てが整った。
この流れ、この雰囲気ならば、いきなりのチュー、そして告白。
ガレフさんも「強引にいった方がいいぞ、ガハハ」と言っていたし、今いくしかない。そんな気がしてきた。
ルージュちゃんも結婚話を聞いて俺を意識しているのだろう。先程からずっと押し黙っている。俺を待っているとしか思えない。
ここは男の俺が勇気を出していくべきだ。
よし、いくぞ!
そう思った瞬間、視界にメッセージが表示された。
〈セクハラは禁止です〉
はぁぁぁ? なんなの? 監視されているの? この世界は一体どうなっているんだ。意味が分からない。
しかし、このメッセージが表示されたという事はルージュちゃんは嫌がるという事なのだろうか。
「ふわぁ、眠くなってきちゃったよ」
危ないところだ。ルージュちゃんは眠くてぼーっとしているだけだ。危うく暴発してしまうところだったが、この世界の謎システムのお陰でギリギリ助かった。
今回はメッセージが表示されたが、いつかこのメッセージが表示されない日はくるのだろうか。
〜あとがき〜
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