第2部 リセマラ勇者への道のり

第1章

第38話 『運営』

【リセマラ】

 リセットマラソンの略称。主にスマートフォン用アプリおいて入手するアイテム等が自分の望む結果になるまで、インストールと削除を繰り返す過酷な作業の事である。



 第1部に引き続き、この物語は異世界においてリセマラのような事を始めた男の冒険譚のような何かである。



 ◇



 ここは神界。

 異世界への転生者はすべからく、この場所へ召喚される。

 神界で転生を司る美しい女神の1柱クレアが、転生者へ話しかける。


 その転生者とは俺、シンヤの事だ。俺は神界に何度も繰り返し来ている転生者だ。そして俺は、神界の事を『運営』と呼んでいる。



 ◇



「結局、また来たわね」


「おおっ、今回はいつものセリフは言わないんだ」


「やめた方が良いって、あなたが言ったんじゃない」


「そうだけど、無ければ無いで淋しいものだね」


「あなた、ワガママね。まあ良いわ。それで、今回は長くあの世界に行っているから、もう戻って来ないのかと思ったわよ。結局、また戻って来たのね」


「俺も来たくて来てるわけじゃないんだよ」


「まあ、あなたの気持ちは神界にいても伝わってきたわよ。少しだけカッコいいと思ってしまったけれど、やってる事はセコイわよね」


「そう言ってくれるなよ。俺だって頑張っているんだよ。どれだけ〈存在削除リセット〉せずにルージュちゃんとパパレとの3人でスローライフを楽しもうと思った事か。スローライフは人気だよ。それに、2人とも良い子なんだよ。魔王なんか倒しに行って危ない目に遭わせたくもないし、街でのんびり過ごす方がどれだけ良いか」


「そう聞くと、よく戻って来たわね。あなた、偉いわね」


「そうでしょ。やっと分かってくれた? 気づくのが遅いよ。そんな頑張ってる俺に女神からプレゼントとかないの? 慈愛の女神らしいじゃん?」


「そうね、私ほど愛に溢れている女神はいないわよ。そうでなければ、こんなに毎回、魔法陣を描いていられないわよ。最高神様から複写機を貸してもらったとはいえ、それなりに大変なのよ。プレゼント‥‥そうね、少しだけ考えてみてあげるわ。慈愛の力をみせてあげるわよ」


「ふーん、慈愛の力ね。何でもいいけど、これからしばらく連続してくる事になると思うから、色々とよろしく頼むよ」


「わかったわよ。あなたも頑張っている事はわかってきたからね」


「でも、さすがに今日はもう疲れているから、ここで休ませてもらう事にするよ。食事のメニューと新しい漫画本はない? あとシャワー」


「あなた、ここは神界よ。漫画喫茶か何かと間違えてないかしら? まあ良いわ。準備してくるわよ」


「さすが慈愛の女神!」


「こんな時だけ調子いいわね。神界に泊まる転生者はあなたが初めてよ」


 俺は女神クレアに食事と漫画本を準備してもらい運営で寛いだ。異世界に行って神界の仕事人として宿屋『踊るトカゲ亭』に泊まるのも悪くはないが、ここで何者でもない只のシンヤとして過ごすのも悪くない。

 女神クレアは色々なジャンルの漫画本を用意してくれ、そのチョイスも悪くない。そのせいで、俺はすっかり寝るのが遅くなってしまった。



 ◇



「ちょっと、いつまで寝てるのよ。そろそろ起きて異世界に行って来なさいよ」


 俺は女神クレアに起こされて目を覚ました。


「あれ? もうこんな時間か。面白い漫画を用意してくれたおかけで、読みふけっちゃったよ。なんで、俺の趣味を知ってるの?」


「だから、私は慈愛の女神なのよ。慈愛の力で、あなたの好みぐらい分かるわよ。ピンク髪のヒロインに、ロリッ子が登場する漫画も入れておいたわ」


「ん? 本当に慈愛の力で分かったの?」


「そうよ。そんな事より、もう魔法陣はたくさん作っておいたから、早く行って来なさい」


 俺は、他の転生者の邪魔にならないように、個室をもらった。その個室にはたくさんの魔法陣が描かれている。この状態なら、女神クレアがいなくても1人で異世界に行ったり来たりする事が出来る。

 女神クレアとのやりとりがないのは味気ない気もするが、女神クレアも俺にばかり構ってはいられないのだろう。


「さて、行きますか」


 俺はこれからリセマラをして最適なスキルを取得し勇者になる。それが魔王を倒し称号を得て、世界を救う近道だと信じている。


 リセマラが世界を救う! そう信じて俺は、魔法陣から異世界へと旅立った。

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