第39話 リセマラマシン

「ふぅ、またここからか」


 俺は、転生者が最初に訪れる街の1つ『ヨイヨイ』にある神殿の前にいた。

 今から俺はひたすらリセマラを続ける事になる。

 現時点で俺が考えている欲しいスキルは3つある。


 まず1つ目。


【特殊レアスキル】〈才器の光彩〉

 魅力+150%アップ


 このレアスキルなしで〈カリスマの腕輪〉を装備するのに必要な【魅力】1000以上を確保する事は厳しいと考えている。

 レベル1から2、レベル2から3へアップした時は、それぞれ10ずつ【魅力】が上がっていた。上がり幅が変わらないと仮定すると、【魅力】1000以上にするためには、レベルが100近く必要という事になる。

 レベル100になる頃には、勇者になる年齢制限の28歳を越えてしまうだろう。


 次に2つ目。


【特殊レアスキル】〈次元の神秘〉

 どこにいても1度行ったことのある神殿へ転移する。


 この世界は交通手段が貧弱だ。そのためこのレアスキルがないと街の移動が大変すぎる。400thアニバーサリー特別スキルは伊達ではなく、色々と便利に使える事だろう。まずは一度、取得して使用感を確認してみたいところだ。


 最後に3つ目。


【魔法レアスキル】〈仁恕の回復〉

 パーティーメンバー全員のHPとSPを大幅に回復する。


 回復魔法があるとないとでは、パーティーの安定感が大きく違うはずだ。

 これは是非ルージュちゃんに習得してもらいたい。ルージュちゃんは【魔法防御力】が高いので、回復効果が大きいと思う。あと可愛い娘に回復魔法をかけてもらうと気分が良い。



 ただし、この3つのスキルが揃う確率は限りなく低いだろう。

 まだまだ知らないスキルも多いだろうし、その中に有用なスキルもあるかもしれない。

 色々と考えると気が滅入ってくる。


 そのうちに俺は思考が止まり、リセマラマシンへと化すのであった。



 ◇



 俺は運営で軽く食事と睡眠を取りながら、来る日も来る日もひたすらリセマラを続けていた。

 そんなある日の事だった。


 魔法陣がたくさん描いてある俺の個室に女神クレアが訪ねて来た。


「あなた、ちょっと大丈夫? 死んだ魚の目になっているわよ。魔王を倒す前にあなたが倒れる方が絶対に早いわよ」


「え、ああ、そう。俺、急いでるから‥‥‥」


 そう言ってリセマラマシンと化した俺は女神クレアの呼びかけにも構わず、魔法陣へと向かった。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。神界で過労死されたら困るわよ」


 俺は女神クレアに手を引っ張られ、魔法陣へ向かう足を止められた。衰弱していた俺は何も抵抗する事ができなかった。


「そこに座ってランチでもして、少しは休憩しなさいよ」


 そう言って女神クレアは、俺にハンバーグランチを勧めてきた。

 俺は、このところゼリー飲料しか摂っておらず、久しぶりに固形物を口にした。


「あ、美味い。生きてるって感じがする」


 ちょっと涙が出そうだった。


「あなた、鬱状態じゃない。やっぱり相当危なかったわね」


「いやー、無心にならないと、こんな事は続けていられないからね」


「そ、そうなのね。食事をとって、少しは落ち着いてきたかしら? 私がこれから言う事に驚かないでね」


「珍しいね、勿体ぶって。何かあったの?」


 俺はこのハンバーグランチは本当に美味いなと思いながら、聞いていた。


「朗報よ。【神界の本棚】を10回引くと1冊レアスキル本が確定になったのよ!」


「な、なに?! ほ、本当に?! それは有り難い!!」


 俺は突然の朗報にハンバーグランチを噴き出しそうになった。


「まだあるわよ。転生で【神界の本棚】を最初に利用する時はレアスキル本の出現率が2倍になったのよ!」


「な?! に、2倍?!」


「さらに好きなレアスキル本が選べる選択券もプレゼントするわよ! これでどう? 凄いでしょ。良かったわね」


「スキル本の選択券まで!! 凄い!!!」


「リセマラを続けるあなたを見ていた最高神様が各所に話をつけて、転生者の応援キャンペーンを開催する事になったのよ。【神界の本棚】400年の歴史で初めてよ。あなた、凄いわね!」


「お、俺が400年の歴史を動かしたというのか。鬱で死にそうになっていたのも無駄ではなかったという事なのか‥‥‥」


「転生者応援キャンペーンは明日から開催よ。今日はゆっくり休んだらどうかしら? あ、それから転生者応援キャンペーンは無期限の予定だから安心しなさいよね」


「明日からか。それなら今日はゆっくり休養するよ。きっと女神クレアも色々と動いてくれたんだろうね。さすが慈愛の女神様。本当にありがとう」


「な、なによ。やけに素直じゃない。私の事はいいのよ。あなたの頑張りよ」


 俺は図らずも欲しいレアスキル本が揃うチャンスが大幅にアップした事を喜んだ。ホッとした俺は泥のように眠った。

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