第33話 金縁のリスト

 すっかり勇者パーティーに時間を取られてしまったが、そろそろ3人目のパーティーメンバーを確認しに冒険者ギルドへ行きたいと思う。

 しかし、王都は広くどこに冒険者ギルドがあるのか分からない。

 またキョロキョロして職質をされてはかなわないので、近くで警備をしていた騎士に聞いてみた。神界の仕事人メンバーズカードの効き目は抜群で、警備の騎士が冒険者ギルド前まで案内してくれた。


 『ヨイヨイ』の冒険者ギルドも立派だと思ったが、王都の冒険者ギルドは格が違った。石造りの巨大な建物で威厳がある。

 出入りしている冒険者も立派な装備品を身に着けている人が多く、素人丸出しなのは俺たちぐらいだ。神界の仕事人メンバーズカードの威光がなければビビりまくっていたと思う。


「随分と立派で大きな冒険者ギルドだね」


「うん。王都の冒険者ギルドは王国騎士団と協力する事もあって色々と仕事が多いんだよ」


「へぇ、そうなんだ。さっそく中に入ってみようか。パパレ、大人しくしていてね」


「分かってるよー、お兄ちゃん」


 少し緊張しながら王都の冒険者ギルドへ入る。冒険者ギルドの中は整然としており、身なりの整った人々が行き交っていた。その中にあって素人丸出しの俺たちは浮いていた。そんな俺たちを係の人はすぐに見つけて用件を聞きに来てくれた。


「神界の仕事人なんですけど、王都にパーティーメンバーがいると聞いて来ました」


 そう言って俺は神界の仕事人メンバーズカードを見せた。


「神界の仕事人、シンヤ様ですね。かしこまりました。それでしたら、5階でお話をお伺い致します」


 係の人にそう言われて5階の応接室へ案内された。

 飲み物にお菓子が出されたのだが、さっそくパパレが食べ終わっている。というか、あまりに美味しそうで俺とルージュちゃんもすぐに食べ終わってしまい、係の人が笑顔で追加のお菓子を持ってきてくれた。係の人に「あまりに美味しそうに食べているので」と言われてお土産まで貰った。待遇がものすごく良い。


 しばらく待っていると、神界の仕事人の担当者という女性が現れて名刺を貰った。シャーロットさんという名前のようだ。

 ここでも背表紙に”神界選抜冒険者一覧“と書かれた見覚えのあるファイルから、5枚のリストを抜き取り手渡された。


「シンヤ様のリストはこちらになります」


 手渡されたリストを見ると、ここでも候補は男性3人、女性2人だった。ただ、いつもと違い1人だけリストの縁が金色になっている。

 なんだこれは?!


「このリストはなんですか? 他と違いますけど」


「レイナス様ですね。レイナス様は貴族の方でパーティーメンバーになるための条件を指定されています。条件付きのため、金色の縁になっています」


 条件付き?! そんな事があるのか。条件付きとか強キャラ感がある。

 そして俺は強キャラ感以上に、貴族のお嬢様にとても興味がある。庶民派のルージュちゃんやパパレとの相性は気になるところだが、神界選抜冒険者なのだから大丈夫だろう。


「レイナス様をパーティーメンバーしたいです」


 普段は優柔不断な俺だが、今回は即決した。

 ただ気になるのはパーティーメンバーになってもらう為の条件だ。厳しい条件でなければ良いのだが、何なのだろうか。


「それで、条件とはなんですか?」


「条件につきましてはレイナス様に直接ご確認ください。レイナス様は今、ちょうど王都のお城にいらっしゃいます。神界の仕事人のシンヤ様が面会を希望しているとお伝えしておきます」


「は、はい。お、お願いします」


 ここでは3人目のパーティーメンバー候補であるレイナス様と会う事はできなかったが、ひとまず面会の約束を取り付けた。



 ◇



 冒険者ギルドを出た俺は、これから城で貴族のお嬢様と面会というシチュエーションに緊張してきていた。


「あわわわわ、貴族のお嬢様と面会だって。ルージュちゃんとパパレもついてきてね」


「あっははー。お兄ちゃん、緊張でガチガチじゃん。パパレがいるから大丈夫だよっ!」


 パパレはお土産にもらったお菓子を食べながら、呑気そうにしている。


「シンヤ君、大丈夫だよ。私たちもついているから」


「ありがとう。2人とも」


 こんな時にパーティーメンバーがいると心強い。有り難いなと俺は思った。



 ◇



 冒険者ギルドから城へ向けて歩いていく。

 城に通じる綺麗な石畳の道路を歩いていくと、木々の緑が美しい大きな広場が見えてきた。

 その広場に何やら人だかりができている。そして人だかりから黄色い歓声が聞こえてきた。


『キャーーーーー!! ブリランテ様ーーー!!!』

『カッコイイーー!! リアム様ーーー!!!』

『ステキーーーー!! イオリ様ーーー!!!』


 また勇者パーティーだ。嫌な予感がする。


「えっえっえっ、勇者パーティー凱旋ライブだって。えっえっえっ、シンヤ君、見に行ってもいいかな?」


「パパレも抱っこされたし、見に行きたいなー」


 アイドル勇者オタクのルージュちゃん、やはりそうなってしまうのか。先ほどパーティーメンバーは有り難いと思ったばかりなのだが。


「時間があんまりないかも‥‥‥」


「そ、そうだよね。パーティーメンバーとして王都に来たのに、そんな事を言っちゃダメだよね。ごめんね」


 ルージュちゃんが、すごくしょんぼりしてしまった。

 よくよく思えば、ルージュちゃんとパパレに一緒に来て貰ってもやってもらう事は何もない。俺が貴族のお嬢様にビビらなければ良いだけだ。俺はそう思って、ルージュちゃんとパパレには勇者パーティー凱旋ライブに行ってもらう事にした。


「ルージュちゃんとパパレは、勇者パーティー凱旋ライブに行ってきていいよ。俺は1人でも大丈夫だから」


「えっえっえっ、良いの!? シンヤ君、ありがとう! 何か欲しいグッズはあるかな?」


「お兄ちゃん、ありがとうございますっ! やったー」


「グッズは遠慮しようかな。2人とも気をつけて行ってきてね」


 俺は2人と別れて、1人で城へと向かう事になった。

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