第32話 勇者パーティーの凱旋

 俺はお風呂上りのルージュちゃんを見たあと、気を失ったまま朝を迎えた。


「ふぅ、よく寝たというか、全く記憶がないな」


 ルージュちゃんとパパレとは仕切られた場所にあるベッドで1人で寝ていたようだ。とりあえず生きているし、疲れも取れているのでヨシとしよう。


 目を覚ました俺は外がガヤガヤと騒がしいのが気になり、窓から外の様子を覗いてみた。王都全体が浮かれているように見える。

 何かイベントでもあるのだろうか。


「今日の王都は騒がしいけど、何かあるのかな? 2人は知ってる?」


「うん。昨日、宿屋の人に聞いたんだけど、すごく人気のある勇者パーティーが王都へ戻ってくるんだよ!」


「へぇ、勇者パーティーが来るんだ」


「パパレ、勇者、見てみたいなー」


「私も勇者様を見たいな! 時間はあるかな? シンヤ君」


 パパレも興味がありそうだし、ルージュちゃんは食いつきが凄い。俺もこの世界の勇者には興味があるので、見に行ってみようと思う。


「俺も見てみたいし、行ってみようか。どこに行けば良いか知ってる?」


「お城に来るって言っていたよ! 楽しみだね」


「じゃあ、身支度が出来たら行ってみよう」


「やったー、お兄ちゃん、お姉ちゃん、早く行こっ。パパレは準備できてるよっ」


 俺たちは人気抜群という勇者パーティーを見物に行く事にした。



 ◇



 街の南門とお城を繋ぐ大通り沿いにたくさんの見物客が集まっている。俺たちはその後ろの方から勇者パーティーが大通りを通過するのを暫し待った。


「シンヤ君、すごい人出だよ!」


「そうだね。勇者、大人気だね。何だか女性の見物客が多いね」


「お兄ちゃん、パパレはここからだと見えないよー。前の方に行ってくるっ」


 そう言って最前列へ行ってしまった。心配だが仕方がない、見失わないように気をつけておこう。

 こんなにも人が集まる人気抜群の勇者らしいが、俺は全く知らないのでルージュちゃんに質問してみた。


「ところで、何ていう勇者が来るの?」


「勇者ブリランテ様たちだよ。この国で1番の人気がある勇者様なんだよ!」


「へぇ、それは凄い人だね。やっぱり強いの?」


「とっても強いよ。今回も魔王城の近くまで行ったという噂だよ!」


「魔王城の近くまで! じゃあ、俺たちのライバルか」


「えっえっえっ、シンヤ君、私たちはまだ何もしてないよ。それなのにライバルって。えっえっえっ」


「そうだったね。まだ何もしてなかったね」


 そんな話をしているうちに勇者パーティーが近づいてきた。

 勇者パーティーを見た見物客が一斉に黄色い歓声をあげる。


『キャーーー!!! ブリランテ様ーーーー!!!』

『リアム様ーーーー!!! ステキーーーー!!!』

『イオリ様ーーーー!!! ダイスキーーー!!!』


 何だこれは?! 俺には何が起こったのか分からなかった。

 そして、ルージュちゃんまで。


「キャーーーー!!! ブリランテ様ーーー!!!」


 ルージュちゃんも黄色い声援をあげ始めた。

 近づいてきた勇者パーティーを見てみると、三者三様の派手な服装に身を包んだ男性3人のパーティーの姿がそこにあった。

 勇者パーティーというよりはアイドルグループのように見える。


「シンヤ君も見てる? カッコいいね! 3人とも勇者様なんだよ!」


「えっ、全員、勇者なの?! そんなのアリなの?!」


「カッコいいし、私はアリだと思うよ! 私はブリランテ様推しだよ!」


「へぇ、そうなんだ」


 ルージュちゃんはアイドル勇者オタクだったのか。

 俺は勇者パーティーを見ても、誰が誰だかさっぱり分からないが、とりあえず全員キラキラしているのはわかる。やはり【魅力】の数値が高いのだろうか。

 女性の見物客の中には、勇者パーティーを見て倒れてしまう人まで出てきた。俺はお風呂上がりのルージュちゃんを見て気を失ったので、それについてはよく分かる。


「3人ともキラキラしているね」


「そうなの! シンヤ君にもキラキラが分かるんだね。上級クラスである勇者様になると【魅力】の数値が大幅にアップするんだけど、私はブリランテ様が勇者様になる前からブリランテ様推しだよ!」


 ルージュちゃんが早口で古参アピールをしてきた。「ブリランテ様は私が育てた」と言わんばかりだ。わりと厄介なアイドル勇者オタクなのだろうか。


 勇者パーティーは俺たちの目の前にやってきたところで、立ち止まった。何をするのかと思えば、最前列にいたパパレを抱き抱えてカメラマンにポーズをとっている。

 小さくて愛嬌のあるパパレを抱えれば絶好の宣伝になるという事だろうか。


「パパレちゃん、いいなー!」


 ルージュちゃんが羨ましがっている。


「私も後でパパレちゃんを抱っこすれば、間接抱っこ。パパレちゃん、数日間は洗えないね」


 ルージュちゃんは何を言っているのか。

 そうこうしているうちに、大人気の勇者パーティーは嵐のように去って行った。

 勇者パーティーが去り見物客が解散し始めると、パパレが走って戻ってきた。


「パパレ、勇者に抱っこされたよっ! あっははー」


 その戻ってきたパパレにさっそくルージュちゃんが抱きついている。パパレは不思議そうな顔をしながらも大人しくしている。

 俺は勇者パーティーに少しだけイラッとしていたが、百合百合しいルージュちゃんとパパレも珍しくて良いものだなと思い、全てヨシとした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る