第25話 お兄ちゃんと同じ部屋がいい

 『ヨイヨイ』に戻り、クエストクリア報告や新レアスキルに驚いているうちに、辺りが徐々に暗くなってきた。


 冒険者ギルドの前で家に帰るルージュちゃんと別れて、パパレと一緒に『踊るトカゲ亭』へ向かった。

 『踊るトカゲ亭』へ到着した俺は、受付にいる看板娘タクトさんに宿泊の希望を伝える。


「2部屋空いてますか?」


 それを聞いたパパレが口を挟む。


「パパレ、お兄ちゃんと同じ部屋がいいなー」


「な、何で?!」


 俺は少し動揺した。


「パパレ、1人だと淋しいですー」


「パパレは家でいつも1人でしょ」


「だから、今日はお兄ちゃんと一緒が良いなーって。何でわざわざパパレと別々にするのかなー? あ、もしかして、パパレを大人の女性だと思って襲っ‥‥‥フガっ」


 俺はまたパパレの口を塞いだ。


「そ、そ、そ、そんなわけないし。そうだな、子供のパパレが1人では心配だな。よし、同じ部屋にしよう」


「やったー。あっははー」


 まんまとパパレに乗せられた気がする。

 タクトさんも今の会話をどれだけ聞いていたかは分からないが、笑顔でこう言った。


「同じパーティーメンバーの方々は、1つの部屋に泊まる事が多いですよ」


「そ、そうなんですね。俺、冒険者になったばかりで分からなくて」


 タクトさんの発言はフォローなのか、何なのかは分かりかねるが、パパレ相手にやましい事をしなければ良いだけだ。

 そうして、俺とパパレは同じ部屋に泊まる事になった。


 俺は腹が減っていたため、さっそくパパレと夕飯を食べに行ったのだが、今日はルービーを諦めた。万が一、酔っ払ってパパレを襲ったりでもしたら、大変な事になる。『運営』もセクハラを監視していると言っていたし、女神クレアに説教されたら、たまったものではない。仕事の後のルービーを楽しみにしていただけに残念ではあるが。

 夕飯を済ませた後、パパレと一緒に部屋へ入る。昨日の1人部屋と同じくシンプルだが、当然、ベッドは2つある。


「あっははー、大きなベッドー」


 そう言って、パパレはベッドへダイブし、ベッドの上でゴロゴロしている。楽しそうで何よりだ。

 疲れているから、俺も今日は早く寝ようと思ったところへ。


「パパレ、お兄ちゃんと同じベッドで寝たいなー」


「な?!」


 どうなんだ?! 転生前の世界でいうと小学校高学年か入学したての中学生ぐらいだぞ、絶対にダメだろう。しかし、今いる異世界は倫理観が少し違うようだ。大丈夫なのか?! 向こうが言ってきているのだから、良いのではないか。

 俺は一瞬のうちに色々な考えが、頭をよぎった。


「あ、でもパパレ、寝相が悪いから別々の方がいいや。お兄ちゃん、おやすみー」


 こ、こいつ、なんて一方的な。勝手に妄想した俺も俺なのだが。

 俺は風呂に入り、一息入れてから寝る事にした。風呂を出て部屋に戻るとパパレが気持ち良さそうに眠っている。


「すぅ、すぅ」


 俺は断じてロリコンではない。そう思ってはいるのだが、パパレの寝顔を見て、またしても可愛いなと思ってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ。い、いや違うんだ‥‥俺は神界の仕事人、俺は神界の仕事人、俺は神界の仕事人‥‥‥」


 俺はそう呟いて気持ちを落ち着け、ズレてしまっている布団をパパレにかけ直した。そして自分のベッドに潜り込み眠りについた。



 ◇



 翌朝、俺は全く起きる気配のないパパレを叩き起こし、ルージュちゃんの家に向かう。

 そして、ルージュちゃんの家である薬草屋『ココ』に8時ぴったりに到着。


「「おはようございまーす」」


 パパレと一緒にルージュちゃんを呼び出す。

 家の中でバタバタと音がしたと思うと、ルージュちゃんが扉を開けて元気に出てきた。


「おはよう。シンヤ君、パパレちゃん」


 ルージュちゃんも大荷物を持っている。女の子は荷物が多いのかなと思いながら、ルージュちゃんから荷物を預かり〈持ち物〉へ収納した。

 そして、俺は旅に出る前にルージュちゃんの家である薬草屋『ココ』で、とある薬草を買っていこうと思っている。


「ルージュちゃん、動悸や息切れに効果のある薬草はあるかな?」


「えっえっえっ、シンヤ君は、まだ若いのに更年期障害なの? それとも心臓が悪いのかな?」


 そう言って、ルージュちゃんは動揺しながらも心配そうに上目遣いで俺の顔を覗き込んでくる。

 これだ。ルージュちゃんのこういう仕草が可愛いくて危険極まりない。この魅了により俺はルージュちゃんがキラキラと輝いて見えて、激しい動悸や息切れが起こる。

 俺はルージュちゃんと初対面の時に薬草の香りで落ち着いた事を思い出し、キラキラが発動した時に起こる動悸や息切れにも薬草が効くのではないかと思っている。


「いや、どっちでもないけど」


 俺はそう答え、ルージュちゃんから不自然に目を逸らし、薬草の並べられた棚を見る。

 ルージュちゃんは少し首を傾げ、不思議に思っているような表情をしながらも、良さそうな薬草を選んでくれた。


「この辺りの5種類がお薦めかな。どれにする?」


「じゃ、全種類ください」


「えっ、全部?」


 パーティーメンバーだから代金はいらないと言われたが、俺はしっかり代金を支払い薬草を購入した。


「お買い上げ、ありがとうございます」


 ルージュちゃんは終始不思議そうにしている。

 しかし薬草を買う理由が、ルージュちゃんの魅了のせいだとは言えないのだった。


 準備は万端、いよいよ王都『ライナライナ』へ向けて出発だ。


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