第8話 戻ってきた運営にて

 ここは神界。

 異世界への転生者は、すべからくこの場所へ召喚される。

 神界で転生を司る美しい女神の1柱クレアが転生者へ話しかける。


「転生者であるシンヤよ。あなたは何故、またここに来たのですか?」


「ねぇ、このくだり毎回やるの?」


「うるさいわね。どんな理由でも転生者が戻ってきた時の決まりなのよ。神界にも色々な規則があって面倒なのよ。最近、女神長様が代わって、それから特にうるさいのよ」


「へぇ、女神も大変だね」


「そうなのよ。この間なんて‥‥って、ちょっとあなた、今のは聞かなかった事にしてちょうだい」


「それは別にいいけど。それよりもパーティーが作れるなら、先に言ってくれないと!」


「パーティー? ええ、作る事が出来るわよ。サプライズがあった方が面白いかなと思って。どう驚いたでしょ? まさか、あなた私に文句を言うためにわざわざ戻って来たわけじゃないでしょうね?」


「いや、それだけじゃなくて、リセマラのついでだけど。でもパーティーメンバーはすごく大切だと思ってさ。そういう事は先に教えてよね」


「分かったわよ。転生者様からのご意見、ご要望として承っておくわ」


「えっ、軽く受け流したね。まあいいや。ところで、今日パーティーメンバーになってくれたアグライアさんは、〈存在削除リセット〉した後どうなるの?」


「あなたとの記憶が都合よく良く消えるわよ。もう、あの世界でのあなたの存在は消滅して、完全に無かった事になっているわ」


「ふーん、そうなんだ。あと、あのパーティーメンバー候補の人たちってなに? あの人たちもランダムなの?」


「あの人たちは、あなたのパーティーメンバーになるために世界中から選ばれた運命に導かれた人たちよ。〈存在削除リセット〉しても毎回あの人たちで変わらないわよ」


「ふーん、〈存在削除リセット〉しても毎回あの人たちなのか。なるほど、そうなんだ。それで1人しか選べなかったけれど、パーティーメンバーは1人だけなの?」


「これから世界を冒険していくと、徐々に分かっていくわよ。最初から教えられないわ」


「そう。でも後で問題があると気づいたら、〈存在削除リセット〉する事になるかもよ。それでも良いの?」


「ぐっ、女神の私を脅すなんて。仕方ないわね。教えてあげるわよ。始まりの街『ヨイヨイ』でまず1人、そこから西にある街『ポメポメ』でもう1人、最後に王都『ライナライナ』で1人の合計3人よ。あとパーティに不足している部分を補うためのゲスト枠として、神界が選んだ人を派遣する場合があるわ。そうすると最終的にあなた本人を含めて、5人パーティーになるというわけね」


「ふーん、そっか。じゃあ次の街と王都とやらで選ばれる人のリストはないの? バランスの良いパーティーにしたいから、先に考えておきたいんだけど」


「ここにリストはないわよ。あなたもファイルを見たでしょ。あなたが冒険を進めて最初にあのファイルを開いた時の運命で決まるものなんだから」


「ああ、あの事務的なファイル? じゃあ確認するために、そこまで進めて〈存在削除リセット〉するしかないのか」


「だから〈存在削除リセット〉はやめなさいよ。私の話、聞いてるの? 運命で決まるものなの!」


「運命だとしても最善のパーティーにしたいからね。だいたい、その選ばれた人たちは誰でも素直に仲間になってくれるの? アグライアさんたちは結婚前日で迷惑そうだったよ。一方的に巻き込まれて、不幸な人たちだよね」


「憧れの神界の仕事人のパーティーメンバーなのよ。もちろん、誰でも素直にパーティーメンバーになってくれるわ。それに不幸なんかじゃないわよ。神界に選ばれたと言って、みんな喜んでいるわ。光栄な事なのよ」


「本当に?」


「本当よ。あなた、疑り深いわね。パーティーメンバーになった人には、まず一時金を支給しているわ。それに毎月お給料だって出しているのよ。なんと、この世界の平均給与の3倍よ。それから、パーティーメンバーになった人の家族にも給付金を支給したり、手厚い補償をする制度になっているの」


「‥‥‥金で解決しているという事か」


「ち、違うわよ。神界の威光よ。はい、この話はもうよしましょう。そんな事より冒険中は神界が見張っているから、パーティーメンバーにパワハラやセクハラは厳禁よ。あなた真っ先に人妻になる綺麗なお姉さんをパーティーメンバーにしたから、心配だわ。注意しないさいね」


「失礼だな。紳士な俺は、パワハラやセクハラなんて酷い事はしないから。それで今、給料って言ったけど、俺にも給料は出るんだよね?」


「もちろん出るわよ。でも転生者は歩合制なの。頑張りなさい」


「歩合制‥‥‥つまり休みもなく、出来高払いの運営の派遣社員という事か。神界の仕事人は、なかなかブラックな職業だな。それなのに、転生した時からどうしてもこの世界を救いたい。魔王を倒して称号が欲しくて仕方がない。称号を得たからといって何もいい事はないはずなのに、何故か頑張ってしまう。俺はこの運営に洗脳でもされているのか‥‥‥」


「あなた、何をぶつぶつ言っているの。大丈夫? ほら、魔法陣ができたわよ。行ってきなさい」


 俺は釈然としないまま、魔法陣から異世界へと旅立った。




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