第6話 レアスキル発動!

 冒険者ギルドを出た俺とアグライアさんは街の西門の前にいた。

 街の周囲をぐるりと囲う壁を出ると、いよいよ魔物の住むフィールドになる。


「スライム討伐か、緊張しますね」


「大丈夫だよ。シンヤ君。さあ行こうか」


 西門をくぐって、フィールドへ出る。

 緊張して街の外に出たのだが、そこにはとても平和そうな草原が広がっていた。違いといえば、街の中のように建築物がないだけだ。

 見ると子供たちが草原で遊び、母親たちが見守っている。


「あれ? 平和そうだ」


「まあここら辺はいたとしても弱いスライムだけだからね。街道を歩いて少し西へ移動しようか」


 街の外は危険だと思っていたが、そんな事はないようだ。

 街を囲む大層な壁は、念のためという事だろうか。


 俺とアグライアさんは、のんびりと草原に囲まれた街道を歩き始める。


「ところでシンヤ君、スキル本は持っているのかい? 神界の仕事人は10冊のスキル本を与えられるという噂だが‥‥‥」


「スキル本ですか。貰った分は全部、使いましたよ。レアスキル本なんか1冊だけでしたよ。もっと出るようにして欲しいですよねー」


 俺は気軽にアグライアさんの質問に答えたのだが。


「え? シンヤ君。スキル本を全部、使ってしまったのかい? ぜ、全部‥‥全部か‥‥‥」


 何故かアグライアさんがショックを受けている。どうしたのだろうか。


「不味かったですかね?」


「いや、だ、大丈夫だ。使い方は神界の仕事人の自由だ。ただ、最初に受け取った10冊のスキル本は普通、パーティーのバランスを考えてパーティーメンバーの誰にどのスキル本を使用するのかを決めると聞いた事があってな」


「そ、そうだったんですか!」


「いや、私が防御スキルしか持っていないから、攻撃スキルを1つぐらい欲しいなーなんて思っていたわけではないんだ。防御スキルしか持っていない事がコンプレックスだとか、そんなわけでもない。ものすごく苦労して【神界の本棚】を利用しているというのに、いつもいつもノーマルスキル本で防御スキルしか出ないという事を根に持っているとか、そんなわけでももちろんない。それが運命だと受け入れているつもりだ。だから気にしないでくれ」


 これで、気にならないという方が難しい。

 冷静でスマートだと思っていたアグライアさんが狼狽している。


 アグライアさんもスキル本の引きが悪い人だったのか。仲間意識を感じる。知らなかったとはいえ、悪い事をした。

 リセマラしても再びアグライアさんをパーティーメンバーに出来る場合は、攻撃スキルを持つスキル本を使わないでとっておこうと思う。



 ◇



 しょんぼりして、すっかり頼りなくなってしまったアグライアさんと30分ほど歩いているのだが、スライムは1匹も出てこない。


「スライム、いませんね」


「ああ、そうだった。スライムだったな。すまない。少し気が抜けていた。あそこに見える林にいるかもしれない。行ってみよう」


 アグライアさんが正気に戻ってくれた。

 少し先を見ると何やら薄暗い林がある。それほど大きな林ではないが、確かに何かいそうな雰囲気がある。


 ガサガサと雑草の生い茂った林の中へ分け入り、探索する。林の奥へ進むにつれ、日の光があまり届かなくなり枯れ葉が積もり、ジメジメとしている。すると、少し離れた朽ち果てた木々の合間に、何かうごめく物体がいるのを発見した。


「あそこにいるのはスライムですか?」


 俺が指差した方をアグライアさんが確認する。


「そうだ、よく見つけたな。あれが討伐対象のスライムだ。まとまって4匹もいるじゃないか。珍しい」


 近づいてみると、何やらオレンジ色をしたジェル状の物体で気持ちが悪い。そして1匹で大型犬ほどの大きさがあり、なかなかに怖い。

 本当にこれが弱いスライムなのだろうか。スライムが俺ににじり寄ってきた。

 あわわわわ、こ、怖い!



 レアスキル「堅牢の総身!」



 俺は怖くなって、レアスキルを発動した。


「え?! シンヤ君?! 〈堅牢の総身〉って‥‥もしかしてレアスキルを発動したのかい? こいつは攻撃力の全くないスライムだよ」


「いや、怖かったので」


「そ、そうか。慎重なんだな。何か魔法は使えるかい?」


「〈火球〉があります!」


「じゃあ、それを放つんだ!」


 ノーマルスキル「火球!」


 しかし、何も起きない。

 スキルの説明では、手のひらから火の玉が出るはずなのだが。

 不思議に思うと、視界にメッセージが表示された。


〈スキルポイントが不足しています〉


 おっと。レアスキル〈堅牢の総身〉でスキルポイントを使い切ってしまったようだ。


「スキルポイントが不足しているようで、火球が出ません」


「くっ! そうか。シンヤ君は、まだレベル1だったな。今日から冒険者だし、上手くいかないのも当然か。よし、それでは私が!」


 そう言うと、アグライアさんは剣を抜きスライム4匹を相手に斬りつけ始めた。ガシガシと斬りつけている。


「スライムは、物理攻撃が効きづらいんだ。こんな時に攻撃魔法でもあれば、新米冒険者の前でカッコよくスライムを倒す事が出来るというのに。【神界の本棚】で防御スキルばかり出るせいで‥‥‥」


 また、アグライアさんに負のスイッチが入ってしまったようだ。

 スキル本を全て自分に使ってしまった上に、スキルポイントを使い切り攻撃魔法の持ち腐れとは、全く申し訳ない。


 そう思いながらも、オレンジ色のスライムが気持ち悪いので、俺はアグライアさんの奮闘を横で突っ立って見守っていた。



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