第5話 優しいお姉さん

 テーブルと椅子だけがある殺風景な別室で待つこと30分、ニーナさんがアグライアさんを連れてきた。


「こちらが冒険者のアグライアさんです。このまま、この部屋を使って構いませんので、冒険の相談をしてください」


 そう言い残して、ニーナさんは部屋から出て行った。


 アグライアさんは、長い黒髪のポニーテールにスッキリとした顔立ち、とてもスマートで美人なお姉さんだ。

 そして、なにこの感じ? お見合い? 緊張してきた。


「ほ、本日はお日柄も良く‥‥」


「ははっ、そんなに緊張しなくてもいいよ。私はアグライア。まだまだ未熟だが、冒険者をやっているよ。よろしく。君は神界の仕事人のシンヤ君だよね?」


「はい。シンヤです。よろしくお願いします。神界の仕事人って呼び名は、何かちょっと恥ずかしいですね」


「そうかい。カッコイイじゃないか」


「そ、そうですかね。えへへ」


 スマートで美人なお姉さんに、カッコいいと言われると満更でもない。

 良いではないか、神界の仕事人。


「それで今日、冒険者になったばかりで何もわからなくて。冒険者の事を教えてもらいたいんですが‥‥」


「OK。それじゃあ1階で良さそうなクエスト受けて、実際に冒険者を体験してみようか」


 優しいお姉さんで良かった。



 ◇



 冒険者ギルドの1階。広々としたワンフロアの空間にたくさんのクエストが張り出され、その中から好きなクエストを受ける事が出来る。


 数多くの冒険者たちが、張り出されたクエストを吟味している。その冒険者たちに混ざり、俺もアグライアさんと一緒にクエストを眺める。

 たくさんあり過ぎて、俺には良く分からないのだが、アグライアさんが色々と親切に教えてくれ、お薦めをあげてくれた。


「ここを見てもわかるように、ランク毎に色々なクエストが張り出されているから、その中から条件の合った好きなクエストを選ぶんだ」


「確かにランク毎に分かれてますね。この辺は低ランクのクエストっぽいですね」


「そうだ、この辺は低ランクのクエストだ。低ランクのクエストなら気にする事はないが、向こうに張り出されている高ランクのクエストになると、依頼主と打ち合わせがあったり、クエストによっては制限があって同時に1組のパーティーしか受けられない場合もある。ドラゴン討伐など倒すと称号が得られるといったクエストは、そういった傾向が強いから注意した方がいい」


「それは大変そうですね」


「今回は初めてだし、打ち合わせや制限のない簡単なクエストにしようか。このスライム討伐なんかはどうだい?」


そう言って、アグライアさんは1枚のクエストを指差した。


「なになに、〈西の街『ポメポメ』へ向かう街道沿いのスライムを5匹倒す〉。なるほど、スライムですか」


「そう。街道沿いのスライムは弱いから、初めてのクエストにはもってこいだよ」


「じゃあ、それにします」


「よし決まりだ。このクエストリストを持って受付へ行こう。初級クエストの手続きは簡単だよ」


 受付窓口にニーナさんがいたので、俺はニーナさんにクエストリストを渡す事にした。


「シンヤ様、スライム討伐のクエストを受けるのですね」


「はい。スライム討伐は簡単だと聞いたので。それでクエストを受けるにはどうしたら、良いですか?」


「クエストを受けるには、まずこちらの水晶玉に手をかざしてください」


 ニーナさんに言われるまま、水晶玉に手をかざす。

 すると水晶玉が輝き、下の台座から1枚のカードが出てきた。


「このカードが、クエストカードになります。依頼内容をクリアすると『クリア』の文字が現れますので、そうしましたらカードを持って、また受付へお越しください。報酬をお渡しします。今回のクエストの有効期間は3日間です」


 ニーナさんからクエストカードを受け取る。名刺サイズの小さなカードだ。


「シンヤ様、そのカードは登録者ご本人が持っていないといけません。無くさないようにして下さいね」


「わかりました」


 俺はクエストカードをマジマジと眺め、〈メニュー〉から〈持ち物〉へ保存した。仕組みはさっぱりわからないが、〈持ち物〉は本当に便利だ。

 ここに仕舞えば無くす事はないだろう。


 俺はこれから初めて街の外へ出る。

 魔物とはどんなものなのだろうか。スライム、怖くないと良いのだが。


 俺はドキドキしながら初めてのクエスト、スライム討伐へ出発した。スキルの効果を確認しつつ無事にクエストをクリアできるのか。


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