いなくなることに、納得するために

「昨日人の結婚式に行ってきたんだけど」

「えっ」

「そんなに驚くこと?」

「まず、空さんに式に呼ばれるような友達がいたんだという驚きと、そのかたを『人』って言っちゃう薄情さと、それでも空さんを呼んだお友達の殊勝さに驚いています」

「少なくとも私の式にあかりは呼ばないわ」

「まだ自分が結婚できると思っているんですか? 将来の夢にお嫁さんって書いて良いのは小学一年生までですよ」

私がどうこの小娘を寂れた映画館の新しい埃にしてやろうか考えていると、あかりは2本目のタバコに火を付けて、少し咽せていた。

「人を呪わば穴二つ」

「空さんも大概あかりのこと馬鹿にしてますからね」

「私はお葬式を遺族のための儀式だと思っているのだけれど」

「前も言ってましたよね。残された家族が、大切な人がもういないことを実感するためのイベントだって」

「イベントとはたぶん言ってない」

「じゃないと前に進めないから、でしたっけ」

「あれ、結婚式も同じよね。本人達の思い出作りはもちろんだけど、親御さんが、もう自分達の子どもが独り立ちして別の家族になることを、理解するための時間なんだなって」

「世の中にあるすべてのものはだいたい自分のためにある、って考えたほうが楽しく生きられますよ。空さんは、どんな結婚式にしたいです?」

「全席喫煙可」

「居酒屋でさえ最近少ないのに……」

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