高円寺にて爆死寸前

「童貞フォーク少年、高円寺にて爆死寸前」

「銀杏BOYZですね」

錆に錆びて、身じろぎするたび派手に軋むカウンターバーの椅子に並んで座る。昔はここでポップコーンやらジュースやらを提供していたらしい。今は給湯室のコンロがその任を引き継いでいる。あかりに掃除をする気はない。

「ずっと野球の話かと思ってた。変化球かと」

「最初のaメロで『フォークを聴いてる』って出てくるじゃないですか」

「すごい角度で曲がるのかと」

「効いてる違い」

「歌詞に一度も野球の話が出てこないから不思議には思っていたんだけれど」

「そもそも高円寺に童貞野球少年がいるわけないじゃないですか」

「じゃあどこにいるの?」

「津田沼」

「偏見がすぎない?」

「でも、よく分からんで聞いてる歌は結構ありますね。丸の内サディスティックは歌詞の2割も理解できてないです。雰囲気を感じています」

「意外な選曲ね」

「そうです? 私だって世が世なら年頃の学生ですよ」

「人に物を教わるさまが一番似合わない」

「人生における大切なことは全部字幕に書いてありますから」

「TSUNAMIと真夏の果実はごっちゃになる」

「今度カラオケでも行きます?」

「私、カラオケで何歌おうか考えている時間が無理なの。酔いに任せてひたすらデュエットとかしてたい」

「そんなんだから友達少ないのでは?」

「誘われたら歌う」

「たった今あかり振られたんだけどなー」

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