自分探しは最初に着いた駅がピーク

「全てを投げ出しちゃいたいときってあります?」

「社畜が朝思うことランキング堂々1位」

「そんなに嫌ならやめればいいじゃないですか」

「大人は面倒くさいのよ」

「歳はとりたくないですね」

「歳は関係ない。社会に出てるか出てないか」

「いっそ海の端っこまでボート漕いでったらどうですか? 世界から逃げ出せるかもしれないですよ」

「どこまで行っても私を知ってる世界に出るだけじゃない」

「でも脚本はありませんから」

 ぬるま湯に浸かって溶けるのを待つのと、あるかもわからない新しい何かを探しに行くの、どっちがいいか考えることすら煩わしく、今自分がどこにいるかも意識の外に追いやって淡々と息をしている。

「箱庭で飼われるか外の世界を見に行くか系の話あるじゃ……ありますよね」

「経験がいきたな」

「年寄りは小言がうるさくてかなわないですね。空さんは箱庭を選びそうですけど」

「ガキは保証のない自由を探しに行くのかしら」

「停滞を選んでよかった話なんてあります?」

「フィクションでそれ選ぶケース自体あまりないじゃない」

「それが理由なのでは?」

「他人の面白みと自分のリアルでは話が別よ……行ってみて、結局ここがよかったって再認識は結構あるか」

「でも外で比較対象を見つけたからあらためて良かったと思えたわけで」

「そんなので更新されるくらいの薄っぺらさなら、どうせまたそのうち冒険に出るよ、そいつは」

「ところで、実際のところ空さんはどっち選ぶんですか?」

「非課税の1億円を支度金としてもらえるなら喜んで自分探しの旅に出るわ」

「夢も希望もねぇ大人にはなりたくないですなぁ」

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