あ「プリシラ」
「カンショウザイってあるじゃないですか?」
「思い出に浸ると罰せられるやつ」
「どんな字を想像してます?」
「干渉の罪」
「ばかがよぉ。プチプチですよプチプチ。梱包するときの緩衝材」
「今ばかって言った?」
「この前メン・イン・ブラックを見てたんですけど、最後大体『実はこの世界は、数ある宇宙の小さなひとつ』みたいな終わり方するじゃないですか」
「お米一粒には7人の神様がいるみたいな」
「私たちって、プチプチ捨てる時ひねって全部潰すことに情熱燃やすけど、もしあの気泡一つ一つに世界があったなら、大変なことしてるんだなぁって」
「あなた……合コンにいると一番痛いやつの発言してるの気づいてる?」
「イマジネーションの話してるのにリアルに戻ささねぇでくださいよ」
吸い殻を捨てて、新しいタバコに火を点ける。吹き出した煙が、のんびりと天井に上っていく。背後から投射される光が放射状にスクリーンに広がっていって、モノクロの映像を映し出している。光に透かされて、埃が踊る。灰色の雑踏の中、少女だけが象徴的に、赤い服を着ている。彼のリストの話。
「空さんはあるんですか?」
「なんの話」
「思い出したら裁かれそうな、浸りたくなる記憶が」
「……あるよ」
でもそれは、感傷に浸るから罰せられるのではない。罰せられなくてはいけないはずだった、思い出だ。人を赦すのは難しい。他人はともかく、自分が自分を赦すことはとくに。あの日、あの人を傷つけた。何気なく口にした一言が、その人の人生を曲げてしまった。そんな記憶が次々とあふれてくる。心臓を有刺鉄線で巻かれているような、冷たくて鋭い痛みが走る。今更どうすることもできない、ただ罪悪感を覚えるしかできない遠い記憶。ふとしたときに、水底から浮かび上がるように顔を出し私を苛み続けるのが、きっと私に課せられた罰なのだろう。
「そうですか」
あかりがぷかりと煙を吐く。勘が良いから、あかりは好きだ。
「そういえば、みーちゃんの動画見ましたよ」
「どうだった?」
「アンチコメントでガチ泣きしてました」
「とことん向いてないな」
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