厄災そのもの

「エルフの使者を名乗る方がお見えになりました、ガイラス様と言うらしいです」

「やっと! よかった!」


 ユマ姫は喜色満面、ソファーから立ち上がる。


 王都に来てからと言うモノ、本国からの接触がまるでなかった。コレほど放置されるとは。本国に見放されたのではと不安で仕方が無かったのだ。


「信じて貰えますでしょうか?」


 シノニムとしては、身一つのお姫様を本物として扱ってくれるかが不安であった。


「それは大丈夫です!」


 しかし、ユマ姫は自信満々。


「私みたいなエルフは他に居ませんから!」

「はぁ……」


 ユマ姫にしてみれば、自分のようなピンクの髪の少女は二人といない。

 果たして応接室に乗り込むと。畏まった使者が待っていた。


「おおっ! ユマ姫様! よかった! 私めはガイラスと申します、姫様はご健勝でしょうか?」

「もちろんです」


 もう、頭からユマ姫と信じていた。

 いや、はじめからユマ姫がココに居ると確信していた。何故か?


「まずはこれを、タナカ様からです」

「え? タナカ?」


 差し出されたのは田中からの手紙だった。

 それにしても、グリフォンを追っていった田中を、なぜ使者が様付けで呼ぶのか?


「タナカ様は、大森林に踏み込むや帝国兵をなぎ倒し、幾つもの村を解放。今や救国の英雄と囁かれています」

「ええっ?」


 ユマ姫にしてみれば、グリフォンを追いかけていった田中がどうして救国の英雄になっているか不思議でならない。


「何かの間違いではないですか?」

「私も連絡員に何度も問い詰めましたが、間違いなさそうです。しかし、我々は勝利に餓えています。小さな勝利を大袈裟に騒ぎ立てているだけの可能性は高いですが、それでも全くの嘘ではないでしょう」

「うーん」


 まだ信じられない。

 ユマ姫にしてみれば田中はそこまで図抜けた強さではなかったからだ。スフィールでは逃げだそうとする破戒騎士団と同じ程度の強さに見えた。

 しかし、ガイラスは熱っぽく語る。


「なにより、姫様がココに居る。魔力が薄い土地で姫様が普通に暮らせているなど、その手紙を見なければ信じられませんでした」

「……そこまでですか」


 パラセル村の若者が魔力不足でダウンしているのはユマ姫も見た。だが、自分はハーフで、ネルネだって王都で暮らして居る。そこまで心配されるのは意外であった。


「ハーフであっても、魔力が濃い場所で育てば順応し、魔力が薄い場所が辛くなります。都で育ったユマ姫さまが、人間の都で元気に過ごされているのは奇跡でしょう」

「そうだったのですね、私の行動は無謀だったでしょうか……」


 魔力欠乏がそこまで体に悪かったとは、それでは誰も訪ねて来ないハズだとユマ姫は納得した。しかし、今度はエルフと人間で同盟を組むのも難しい。

 先走って王都に来たが意味がなかったかも。そんな不安が頭を過ぎる。


「いえ、なにも共に進軍するばかりが同盟の形ではありません。私も同盟締結に尽力致します」

「そういうものなんですね」

「そういうものです、何か入り用があれば、コチラに連絡して下さい。ハーフの男が詰めています」


 その言い方にユマ姫はふむ、と唸る。

 既にエルフと言う言葉が浸透している。田中の功績は本当に大きいようだ。


 そうして、ユマ姫は本国からのバックアップが受けられる運びとなった。


 ユマ姫は自覚していないが、エルフの国の技術は抜きん出ている。

 他では決して作れない魔道具や金属、カーボンにセラミック、宝石の類も多く抱えている。そして、帝国に侵略された事で食料品が不足していた。


 つまり、貿易相手としてはかなりオイシイ。その窓口がユマ姫になった。今までは正体不明の自称お姫様だったユマ姫は、誰もが無視出来ない存在になっていく。


 なにより、だ。

 と違って使者であるガイラスが、田中からの手紙を持って来たのはなぜか? こんなにも早く、田中の活躍が聞こえて来たのはどうしてか?


 それは、単純に知名度の問題だ。あの時、ユマ姫は既にして王都で大人気。誰もがユマ姫に渡りをつけたいと狙っていた。もちろんヒーロー役として田中の名前も知られていた。

 だからこそ、ガイラスは、田中の手紙など渡されても本物だとは夢にも思わない。連絡員が田中の話をしても、噂が混入したのだと判じてしまった。

 姫を救った英雄が実は秘かに生きていたばかりか、大森林で英雄に収まっているなど、出来過ぎていて世迷い言としか思えなかった。


 ガイラスだって、キチンと情報収集はしていた。帝国の侵略以前から、エルフの使者として王都では知る人ぞ知る存在だった。具体的には宰相や中央にある程度顔が利く。


 だからこそ、ユマ姫が王都に居るなんて、あの時は絶対に信じなかった。


 なにせ、あの時のユマ姫の行動は派手のひと言。

 広場でのスピーチ、オルティナ姫の生まれ変わりを騙っての堂々たるダンス。劇場では女優顔負けの演技。

 それらエピソードの数々は病弱なユマ姫から結びつかない。むしろ、目立ちたがり屋の偽者らしいエピソードに思えて仕方無かったと言う訳だ。

 田中と、ユマ姫。二人のやり過ぎた活躍で、入るべき情報がガイラスに入らなかった。


 しかし、今回は違う。

 どこかとぼけたユマ姫の噂は、ガイラスにもらしく聞こえた。怪しい所はドコにもなかった。だから、あっさりとエルフの国と繋がった。


 存在感を増したユマ姫を中心に、シャルティア不在の王都は更に混迷を深めていく。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 手紙を受け取ったユマ姫は、その足で木村の商会を訪れていた。田中からの手紙には木村に宛てたメッセージも混じっていたからだ。

 二人が知り合いなのも驚いたが、いきなり手紙を渡すのはダメと言うのも驚いた。


 ユマ姫は手紙の文面を読み上げる。


「ぬるぽ!」

「ガッ!」


 微妙な沈黙が、豪華な応接間を支配する。


「何ですか? これ? ぬるぽ?」

「私と田中の間の符丁です。偽者に情報を渡さぬようにと」

「まぁ、慎重なんですね。暗号の上に符丁まで」


 感心しながら、ユマ姫はおずおずと手紙を差し出した。

 受け取りながらも、木村はため息。符丁どころか、まるで意味がない。ただの嫌がらせだ。


 木村は以前、ぬるぽとだけ書き殴った手紙を帝都の田中に届けた事がある。ガッと叩きに王都まで来いという招待状だ。あの酷すぎる手紙を田中なりに根に持っていたに違いない。

 木村にしたって手紙に書くのは良いが、声に出してガッと言うのは恥ずかしい。まして相手は何にも知らないお姫様だ。


 大体にして、日本語で書けば解読不能なのだから、凝った符丁など一切不要だ。案の定、田中の手紙は日本語で記されていた。


――わりぃな、まだそっちに行けそうにない。日本刀を手に入れて好き放題斬りまくってる内に、何故だか英雄みたいになっちまった。


……なぁ? そっちで高橋は見つかったか? 俺は見つけられてねぇ。

 ただし、近いモノは見つけたぜ。

 アレは確実にアイツと関係がある。



 …………そうだ、

 ユマ姫だ。


 アレは得体が知れない。


 絶対に歯向かうな。

 人間がをどうにか出来ると思うな。


 死ぬぞ。



「…………」

「……なんと書いてあったのです?」


 ユマ姫がニコニコと問いかける、木村は初めてその笑顔が恐ろしいと感じた。


 木村とてコチラの世界で商売を広げ、多くの人間を見てきた。

 だから解る。貴人でありながら、ユマ姫ほど無邪気な存在を木村は知らない。


 そんなユマ姫を、親友は何よりも恐ろしいと断言した。こうなると、底抜けの無邪気さが逆に怖い。


 思い出すのはユマ姫を巡る噂の数々、左手に呪い、右手に奇跡。左目に繁栄、右目に破滅。左右の色が違う彼女の瞳が恐ろしげな噂を加速させた。

 ダックラム家の執事が彼女の右目に睨まれて死んだとか、当主が取るものも取りあえず逃げ出したとか、全部がタチの悪い噂だと思っていた。


 だが、見る人が見なければ解らない類の呪いだとしたら、どうだ?


「いえ、なんでもありません。ユマ姫をよろしくとだけ」


 恐怖などおくびにも出さず、木村は笑って手紙を捨てた。

 ユマ姫が恐ろしいからと言って、敵対するのは論外だ。むしろ、必ず味方でなければならない。高橋と関係があるなら尚更だ。


「あっ、その、今後もよろしくお願い、出来ますでしょうか?」

「もちろんです」


 深々と頭を下げるユマ姫に、木村は微笑む。


 我こそはお姫様と、なにかと権威を保とうとするユマ姫だが、プリンの供給元である木村にだけは腰が低い。後ろで見ているシノニムがハラハラするほどに。


 しかし、とんでもない爆弾を投げ込んでくれたものだと木村は頭を悩ませた。田中にはぬるぽの礼もしなくてはならない。

 そこで閃いた、悪友に対する絶好の反撃方法。


「我が親友、タナカの活躍に報いたい。そうですね、彼の活躍を劇にするのはどうですか?」

「劇、ですか?」

「そう、たったひとり、エルフの国に踏み込んだ人間が、帝国兵をバッタバッタとなぎ倒しエルフの女性と恋に落ちる、こんな筋書きはどうでしょう?」

「え? タナカさんがエルフと?」

「そこはモノの例えです、多少は膨らませても罰はあたりません。なによりこの劇を見れば帝国恐るるに足らずと、市民が勢いづくのは間違いない」

「そ、そうなのですか?」


 ユマ姫は振り返ってシノニムに問う。

 しかし、シノニムにしたって劇の台本になど詳しくない。ユマ姫の名を使って、閑古鳥が鳴けば評判に傷が付く。


 一方で、木村はこの脚本に絶対の自信があった。


 妖獣殺しとして名を馳せた田中が、帝国で叙勲され騎士爵を授かるも、貴族の習慣に馴染めず出奔。

 旅の途中でエルフの姫と出会い護衛として同行するものの、現れた妖獣に姫の秘宝を奪われてしまう。

 そうして辿り着いた大森林で、エルフの味方をして帝国兵を退治し、エルフの村を奪還。姫の秘宝も取り返し、英雄と崇められ、エルフの女性と恋に落ちる。


 いわゆる、白人酋長はくじんしゅうちょうモノだ。


 そして、ユマ姫の存在が白人酋長モノの欠点を埋めてしまう。それはヒロイン。

 蛮族の女など伴侶としては不適格。そんな男が多いし、女性だってヒロインだぞと言われても、異国の蛮族を自分と重ねるには抵抗が強い。

 森に棲む者ザバというのはそれだけ恐ろしい鬼のように語られる事が多いのだ。


 だが、ユマ姫は可愛らしく、あと数年で絶世の美女になる事が想像に難くない。実際のユマ姫を見れば、誰もエルフを蛮族などと罵れない。

 お姫様だけあって、文化的な洗練を感じる佇まい。

 なにより、悲劇のお姫様であるユマ姫の存在は、女性の憧れを受け止めるのに十分だ。


 そうして、急遽封切られた『黒衣の剣士タナカの物語』は王都で大人気になっていく。

 もう王都にはタナカの名を知らない者は居ないほど。これが木村の田中に対する意趣返し。

 しかし、木村にも予想外だったのはユマ姫が案外芸達者だったこと。彼女は劇の合間のスピーチや小芝居に登場し、その可愛らしさで人気を博した。

 エルフの国のティアンスと呼ばれる弦楽器と、木村のギターのセッションは王都中の話題を攫ったりもした。



 そうなれば今回も、その時がやってくる。

 ボルドー王子が劇場に現れ、ユマ姫に声を掛けたのだ。


「え?」


 しかし、ユマ姫はプリンに夢中で話を聞いていなかった。

 慌ててシノニムが、ボルドー王子とユマ姫の間に割って入る。


「同盟とは、本気でおっしゃっていますか?」

「そうだ、我々はどうにもアピール力が足りていない。ユマ姫の人気にあやかりたいのだ」


 ボルドー王子らしいあけすけな物言い。それも、人の目がある劇場で堂々と誘ってきた。断るとメンツを潰してしまう。そんな状況を作られた。


「突然言われても困ります」

「突然では無いはずだ、君には何度も話を通す様に依頼してきた。今日は直接ユマ姫と話をしたい」

「…………」


 シノニムは唇を噛む。十二歳のユマ姫にこんな荒技に出てくるとは想定外だった。

 このままのらりくらりとどちらにも付かず趨勢を見守りたかったが……でも、考えようによってはチャンスでもある。

 継承争いは、何と言っても第一王子のカディナールが優勢だ。病床の王がいつ後継者として指名するか解らない。しかし、田中とユマ姫の人気、そしてボルドー王子の軍への顔利きがあれば、十分に逆転可能。

 そうなった時、どれだけの恩が売れるのか? シノニムはソロバンを弾く。勝ち馬のカディナールに乗っても、大したおこぼれに預かれない公算が高い。


「ユマ様は、ボルドー王子をどう思いますか」


 だからこそ、ユマ姫を信じて話を振ってみた。

 無邪気で楽観的な所があるが、このお姫様の地頭は悪くない。


「……あの、同盟と仰いましたが、対等な関係と思って良いのでしょうか?」


 はたして、緊張を隠さず、少女が尋ねる。ボルドー王子を見上げる眼差しには決意が籠もっていた。

 シノニムは確かに条件を聞いていなかったと反省すると同時、流石に対等は難しいと現実的に捉えていた。

 いや、最初はふっかけた方が良い。やはりユマ姫の頭は悪くない。

 しかし、本当に意外だったのはボルドー王子の反応だ。


「そうだな」


 言うなり、ユマ姫の前に膝を折った。


「なっ!」


 あり得ない、周囲もザワつく。王子たるもの父である王以外に膝を折るなど許されない。ましてや他国の姫君だ、まさか結婚を申し込む場面ならともかく、国の権威を損なう行動とみなされる。


 いや……まさか! その、まさか、なのか?


 その可能性に気が付いて、心なしかユマ姫の顔も上気していた。


「あの、えと」


 ユマ姫にとってボルドー王子は冴えない地味なおじさんで、キラキラした印象の第一王子と比べても印象が良くなかった。見た目の派手さに目を奪われがちなお年頃という奴である。

 だが、偉そうに頭ごなしに話し掛けて来る大人が多い中、偉い王子様が膝を折って自分と目線を合わせてきた事に緊張を隠せない。

 どうしても意識してしまう、間近で見ればボルドー王子の顔は粗野で朴訥、ニキビの跡すら目立っている。

 だけど、どうしようもなく誠実で、瞳の奥には狂おしい程の寂しさを湛えていた。それは母や兄を目の前で失った自分と通じるモノだと、ユマ姫は直感した。


 だからこそ、ゴクリとツバを飲み込んだ。ボルドー王子の言葉を待つ。


「対等も対等。私は、君を家族として迎え入れたい」

「え……その」


 手を取られ、ジッと瞳を覗き込まれる。ユマ姫は錯乱した。対等な女性として扱われるなど今まで無かった。


「家族、ですか?」


 ユマ姫の妄想は止まらない、冴えない王子を支え、国を盛り立て、帝国を征服。最後には幸せな家庭を作る夢から帰ってこられない。


 だけど、そんなお姫様の妄想は、王子の次のひと言で断ち切られた。


「ああ、君を私の娘として迎え入れたい」

「え?」


 ユマ姫は呆然とするが、これが当たり前だ。

 王子は二十七、十二のユマ姫など娘としてしか見られない。


「私は、七年前に婚約者を失っている。私がもう少しヤンチャだったら、君ぐらいの娘がいたっておかしくなかった。もっと私に勇気があったならと後悔して止まない」

「え? あの?」

「どうか、私に君を守らせてくれないか? あいつみたいに君を失いたくない」

「えぇ~」


 夢が醒めてしまったユマ姫は、じわりじわりと後ずさる。


「そんなぁ」


 落胆するユマ姫だが、周囲は首を傾げるばかり。これは最上級のお誘いだからだ。後ろ盾の乏しい少女を王が妻にする場合。一度養女に迎えてから王妃にするケースもあり得るのだから、これが当たり前の反応、これ以上ない申し出である。

 なにしろ、まだユマ姫は十二歳。いきなり婚約と言うのは早過ぎる。それこそあり得ない。


 ……そのあり得ないがあり得てしまったのユマ姫は、人の耳目を強烈に集めるオーラがあった。なによりヒリつく様な危険な色気を纏っていた。


 ユマ姫に恋い焦がれて正気を失う男が後を絶たない程。それこそ朴念仁で知られる近衛隊長のゼクトールが筆頭だ。

 一方でいまのユマ姫にあるのは天真爛漫な可愛さだけ。娘にと言うのが関の山。後数年たてば求婚が殺到する美女に育つだろうが、まだ早い。


 一方でユマ姫の反応は信じられぬ程に苛烈であった。


 恨みがましい目でユマ姫はボルドー王子を睨む。その目は日頃の無邪気なユマ姫からは考えられぬ程に剣呑で、子供扱いに怒ったと言うにはあまりにも物騒。


 なぜ、ユマ姫はこんなにも怒りを露わにしているのか。

 それが誰にも解らない。


 ユマ姫は、目に涙を溜め、問い詰める。


「なんで!?」

「何か、お気に障ったかな?」

「私には……」

「??」


 ポロポロと涙を零しながら、声を絞り出す。


「もう、父様が居ますから!」


 そう叫んで駆け出してしまう。その後をボルドー王子は追えなかった。

 ユマ姫の言葉にハッとしたからだ。確かに帝国がエルフの王の首級をあげたと言う話は不自然なほど入ってこない。


 状況証拠としては十分過ぎる。しかし、あの少女は諦めて居なかった。毎日どんな気持ちで本国の情報を聞いていたかと思うと胸が締め付けられた。


「私はどうにも女心がわからんらしいな」


 劇場には、肩を竦めるボルドー王子が一人残された。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ハァハァ……」


 劇場から駆け出したユマ姫は、いつの間にかたった一人で街中に飛び出していた。

 ここまでどうやって来たかも覚えていない。


「これは、まずいかも」


 薄暗い街路にお姫様が一人。格好のカモである。


「あの、ひょっとしてユマ姫様じゃありませんか?」


 そんな時、ゆっくりと現れたのはセミロングでライトブラウンの髪の女性だった。


 あんまり特徴が無い顔なのだが、よくよくみれば非常に整っても見える。不思議な印象の女性だ。

 高橋が見たら「乙女ゲームのヒロインみたいだな」と言うかも知れない。


「あの、あなたは?」

「あっ、ごめんなさい! ご挨拶が遅れました。私、ルージュです。ルージュ・トリアン」


 カディナールの新しい婚約者が、一人で彷徨うユマ姫を見つけてしまった。


 それが厄災そのものだとも知らずに。

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