公開処刑1
「ラミィさん、もうちょっと寄って下さいよぉ」
「無理! え? ラミィって私の事?」
本日はお日柄も良く、絶好のイベント日和。私はプラヴァスから奴隷としてやってきた、カラミティさんと中央広場のイベントに来ています。
「そうですよ、名前長いんですもん。私なんてネルネードなのにネルネって呼ばれてるんですから」
「そんな事言われても……。まぁ良いけど。コレ、何が始まるの? 私、忙しいんだけど」
「またまたー忙しいなんて、結構良い待遇だって聞きましたよー」
ラミィちゃんは奴隷と言っても、実はプラヴァスのお嬢様。政変の都合とか諸々でキィムラ様に貰われて、なんだかんだユマ姫様の預かりみたいな、良く解らない立場になっている。
ユマ姫は戦場に行ってしまったので、今はキィムラ商会で働いているらしいけど、本当に奴隷みたいな強制労働をさせられているハズはないでしょう。
なのにラミィさんはゲッソリと俯く。
「毎日遅くまで、キツイ仕事ばかりで本当に辛いんだけど!」
「そ、そうなのです?」
その真に迫った嘆きに、私は思わず身構えた。
可愛い彼女が急成長を続ける商会で、キツイ労働。夜遅くまで。
……ここまで来れば、もう一つしかないからだ。
「そう! 戦争関係の帳簿が山積みで、ちゃんと管理出来る人が全然足りないの。毎日遅くまで計算して、やっと出来た休みなんだけど!」
「なんだ、そうだったんですね」
「なんだって……」
てっきり性的な接待かと焦ってしまいました。なんせ初めは性奴隷とか玩具とか物騒な言葉で紹介されたんですもん。
そういえば、プラヴァスでは優秀な学生だったって言ってたかも。帳簿計算とか出来るんだ……。
私の勘違いを見透かしたのかジト目で睨まれたけど、ラミィさんは一転して上目遣いでもじもじと尋ねて来た。
「あの、それでキィムラ様は帰ってないの? それに、お姉様は?」
「お姉様?」
「えと、シャリア様……あ、それにシノニムさんも」
「あ、うん、その二人はまだ戦地だって」
……ちょっと怖くて聞きにくいんですよね。
ほんとに生きてるのかな?
シャリアちゃんとか殺してもユマ姫から離れるとは思えないんですけど。
「じゃあ、キィムラ様は?」
「あ、はい、キィムラ様も戦場で補給とかを指揮してるって」
「そう……」
ラミィさんは露骨にションボリと俯いた。そんなにキィムラ様の事を好きだった様には見えなかったけど。
「あ、あのね、私、結婚したいなって……」
「え゛!?」
き、き、き、聞いてないですよ?
ってか、あなた奴隷だし!
許されませんよ。裏切り行為です!
私を差し置いて許されないですよ?
「だ、だ、誰? フィダーソン老?」
「なんで!? お爺ちゃんじゃない! 物知りだから良くお話を聞きに行くけど」
「じゃ、じゃあ誰です?」
「あ、あの……商会の、フィーゴ君」
「ええっ!」
……私より若いのにキィムラ商会のナンバー2の男の子だ。それはもうメッチャクチャ頭が良い。ちょっと怖いぐらい。
そっかー、玉の輿に狙ってたのになぁ……。そりゃ二人で仕事をしてるとは聞いたけど、ラミィさんなら大丈夫だと信じていたのに。だってシャリアちゃんを見る時、目がトロンとしてるし、ユマ姫の脇を美味しそうにペロペロ舐めるし、私てっきりそう言う人かと思ってた。ちょっと警戒してたぐらい。
でも彼女の立場を考えるとシャリアちゃんに心酔するのは無理もないのかな。
ラミィちゃんはシャリアちゃんに助けられた時の事を熱っぽく語っていた。そして、今はフィーゴ君の仕事っぷりを頬を染めて語るのだから、出来る人を好きになっちゃうってだけみたい。
「あ、あのね、彼、女装するとね、凄く可愛いの」
……あ、やっぱりそっちの人なのかも知れません。
嫌疑保留です。保留。
「私の事より! 強引に呼び出して、何が始まるのよ?」
「えっと、端的に言いますと」
「言うと?」
「処刑です」
「え?」
私が宣言するとラミィさんはポカンと間抜けな顔をした。
「しょしょしょ?」
「しょ?」
「処刑ぃぃ? そんなのを見るためにこんな人数が集まってるの?」
ラミィさんがバッと後ろを振り向くが、見るまでもなく中央広場はギュウギュウの人だかり。
王都に於いて、処刑は何よりの見世物なのだ。私達が柵で守られた最前列で見て居られるのは、コネがあるから。
「そ、そんなの野蛮だよ」
だけど、プラヴァスではそうではないのかな?
南方は中央よりずっと野蛮と聞いていたのだけど、ラミィさんを見てると解らなくなる。でも、キィムラさんなんてプラヴァスを歩くと曲刀を担いだ強面に次々絡まれたって言ってたんだけど……。
それに、本当の事を言うと私も人間が死ぬところを見て喜ぶ趣味はない。今回、処刑の最前列で待機してるのは理由があるからだ。
「実は、さる御方に処刑の様子と、民衆の反応を事細かに報告するように言われていて」
「……それってユマ姫でしょ? あなたに命令するんだから」
「えへへ」
宰相がこんな命令するわけないので、バレバレでした。
「で、ユマ姫がそんな風に民衆の反応を気にするなんてよっぽどの大物よね? 誰が処刑されるの?」
「え? ユマ姫ですよ?」
「は?」
ラミィちゃんはいよいよ褐色の美しい顔を歪ませて、瞳と口をまん丸に見開いた。
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